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SMILE!
3



互いの音が伝わって、伝わる。


「江夏も、緊張してるのか?」

「…っあたり、前だろ…」

「だよな」


まだ手は互いの胸の上。
その状況でまたドキドキする。


「さっきの話、」

「……、」

「オレは絶対江夏を幸せにしてやるから」


…そんな、絶対って
将来がどうなるかは誰にも分からないのに。


「……分からない、だろ…絶対幸せになれる、かなんて」

「いや、絶対幸せになる」


その自信はどこからくるんだ。
今は言えても、実際に付き合ったりしたら、幸せにするとは言えないんじゃないかと思う。


「……な、んで…」

「オレが何をしてでも、お前を幸せにするから」


顔を上げて、木野を見れば微笑んでいて、言葉を失った。
どうして、そこまでおれを想ってくるんだろう。おれは木野の気持ちに応えられないかもしれないのに。


「まあ、それはオレと付き合った時の場合だけどな」


胸から手を離した木野はくしゃりとおれの頭を撫でた。


「…おれ、」

「じっくり考えればいい。オレは急がないから」

「……あ、りがとう」


でも、ごめん
優柔不断で、いつ答えが出るかも分からないのに。
また、待たせている。


「江夏」

「……何、だ?」

「キスしてもいいか?」

「…え、」

「嫌ならいいけど」

「……その、聞き方はずるい」


そんな事をいちいち聞かないでほしい。恥ずかしくなるし、断れない雰囲気じゃないか…


「嫌なら嫌って正直に言えばいいだろ?」

「……だっ、」


だって、と言う前に、顎を掴まれて唇を塞がれた。


「…っん、ん…」


おれの上唇を甘く噛み、ペろりと唇を舐めて木野は離れた。


「わりぃ、我慢出来なかった」


笑顔でそう言われた。
眉間にシワを寄せて睨むと、ぐしゃぐしゃに頭を掻き乱された。





―side.深雪



「そろそろ戻るか」


ぐしゃぐしゃに掻き乱した江夏の髪を元のように整えてやる。
頷く江夏の手を取ろうと手を伸ばすが、寸前で止める。
オレはこの手を取ってもいいんだろうか。
……いや、駄目だろ
キスしてから思うのもなんだが、この気持ちが通じ合ったわけじゃない。
なのに、手を繋いだり、抱き合ったり、キスするのは江夏が嫌なんじゃないだろうか。
きっと江夏の事だから、面と向かって嫌とは言わないんだろうけどな。まあ手繋ぐのは、別に構わねぇかもしれねぇけど。
でも、今は手を繋げない。
緊張し過ぎて、手に汗が滲んでいる。

…だせぇ
好きな奴を目の前にして、緊張するとか…


「…木野?」


寸前で止めていた手を江夏に取られた。
江夏から取られるとは思わず、驚いていると、手を引かれる。


「……戻らないのか?」

「いや、戻る…けど、」

「……けど?」

「オレ、手…汗でびしょびしょだけど」


そう言って江夏を見れば、江夏は口元を緩めて笑っていた。
オレの手を江夏はぎゅっと握る。


「……おれも、一緒だから」


大丈夫、と江夏は微笑み、オレの手を握ったまま歩き出す。

……タチわりぃ、
お前はオレをどうしたいんだよ
うっかりじゃ済まされない程、オレは江夏に惚れてるみたいだ。
繋いだ手が熱い。

江夏の側にいたいと思う。
でもそれはオレの気持ちで江夏がどう思ってるのかなんて、分からない。

片想いって、苦しい
江夏に答えは急がないと言ったけど、そんなの嘘で、心の中じゃ早く答えが出ればいいと思ってる。


「…江夏、」

「……何だ…?」


名前を呼べば、ちゃんと反応してくれる。当たり前だけど。
馬鹿みてぇに優しくて、ちょっと鈍感で、タチの悪いお前が好きなんだよ。


「何でもねぇ」


…お前の、側にいたい。



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あきゅろす。
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