SMILE!
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それに、
「…鈴の事、嫌いになってたら、会いになんて来ない」
鈴と気まずくなるのは嫌だし、おれは鈴と今まで通り話したい。
そう呟くと、腕を掴んでいた手を握られた。
「そうやって優しいから、期待するんですよ」
優しくしてるつもりは、あまりない。ただ思った事を言ってるだけで。
「期待していいんですか」
「……え、いや…それは、」
言い淀んでいると、ステージ上で行われている劇のセリフが耳に入ってくる。
《いつまで待てばいいんだ!お前は俺を待たせてばかりだ!!もううんざりだ…!》
そのセリフにドクンと心臓が跳ねた。
おれに当て嵌まるセリフ。今おれは皆を待たせている。もしかしたら、皆もうんざりだと思っているのかもしれない。
「……鈴は、あの人みたいに、」
「え?ああ…待つのにうんざりしてるかですか…?」
おれの言いたい事が分かった鈴は視線をおれに向けた。
闇の中で、鈴と目が合う。
「正直嫌です、いつまで待てばいいんだろうって思います」
やっぱりそうだよな…
待つのが好きな人など、いるのだろうか。
少なくともおれは嫌いだ。
「でも、待つって決めたのは俺です。本気で好きだから、嫌でも待ちます、ずっと」
鈴は、そっとおれの頬を撫で下ろす。
「……ご、めん」
「謝るのは俺の方です。本当にすみません、酷い事して」
「……いや、大丈夫だったから」
ぎゅっと手を強く握られた。
おれの耳元に顔を寄せ、呟く。
「八さんを好きになって、すみません」
前髪をかき上げられ、額にキスをされた。
好きになったからって謝る事ないのに。戸惑いの方が大きかったけど、嬉しかったのも事実。
だから、謝らなくていいのに。
結局文化祭が終わるまでそのまま鈴と一緒に体育館で過ごした。
歌を歌ったり、ダンスしたりと見ているだけで楽しかった。
「終わっちゃいましたね」
「……ああ」
「俺は今から風紀の集まりがあるんですけど、八さんはどうしますか?」
「……おれは家に戻る」
シマに留守番させているし、戻ってエサもやらなければいけない。
「わかりました」
気をつけてください、と鈴に優しく頭を撫でられた。
鈴と体育館で別れ、ひとり家に帰った。玄関を開けるとシマが足元に寄って来る。抱き上げて、頭を撫でるとごろごろと喉を鳴らす。
鈴と仲直り出来てよかった。
喧嘩をしていたわけじゃないが、気まずいままは嫌だった。
あとは流星。会えるだろうか。
流星のことだから、うろうろして見つからないかもしれない。
それに明日は木野の所へ行く。
「……あ、」
木野の所へ行くのはいいが、木野のクラスを知らない。
聞いておけばよかった。
とにかく明日は流星に会う事と、木野のクラスへ行く事を自分の中で決意した。
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