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SMILE!
暗闇



隠岐が去って、一人になった教室の床に座り込み、ぼーっとする。
手首を見ると歯型の跡があり、少し血が滲んでいた。
隠岐が去り際に噛んでいった。会う度に噛まれている気がする。


「…痛い、」


じんじんと噛まれた部分が熱を持ち、痛かった。
隠岐とはちゃんと話せた。ほとんど矢野のおかげだけど。
やっぱり告白されると、心臓が破裂するんじゃないかと思う程ドキドキする。きっとおれだけじゃなくて、相手もそうなんだろうなって思う。
告白って、すごく勇気がいるんだろうな。フラれるか、想いが通じるか。
分からないのに伝えるその勇気はすごいと思う。たぶんおれには無理だ。

隠岐とは話せたから、あと流星と鈴。自分から行かなければ、二人は会ってくれない気がする。


「……よし、」


行こう。
どこにいるか分からないけど、会いに行こう。着ぐるみなどに隠れず、おれ自身のままで。
立ち上がり、教室から出た。
逃げないと誓った。

校舎から出て、外を歩く。
さっき流星がいた所に行ったが、そこに流星の姿はなかった。


「……どこに、いるんだ」


きょろきょろと辺りを見渡していると、後ろから呼ばれた。


「え江夏さんっ!」


振り向くと矢沼が息を切らして立っていた。


「……矢沼」

「こっ、こここんにちはっ」

「…ああ」


まだおれに慣れてくれないんだろうか…?
矢沼なら鈴の居場所を知っているかもしれない。


「……矢沼、」

「は、はいっ」

「……鈴、どこにいるか知ってるか…?」

「依鈴ですか?た体育館だと思います…!い、依鈴に用があるんですか?」

「…ああ、ちょっと話したい事があってな。ありがとう矢沼」


矢沼の頭を撫でると、顔が一瞬で真っ赤に染まった。


「いいえっ!役に立ててよかったですッ!」


矢沼はガバッと頭を下げて、走り去った。
矢沼も生徒会だから、忙しいんだろう。なのに、わざわざ声をかけてくれた。その事に嬉しさを感じた。

体育館に入ると、外からの光を遮っており、ステージ以外は暗く闇に包まれていた。
ステージ上では劇が行われていた。何の劇なのか、おれにはわからなかったが、どうも恋愛ものらしい。
目をこらして鈴を探す。暗いが、見えない程ではない。
もし鈴がステージの方にいるなら近付けない。後ろの方にいる事を願いつつ、体育館を見渡す。


「……あ、いた」


願いが通じたのか鈴は端の方に壁に背を預けて立っていた。
じっとステージを見ていて、おれには気付いていない。少し緊張しながら、鈴に近付く。


「………鈴、」


ある程度近付いた所で鈴を呼ぶと、鈴はゆっくりとこっちを見た。
驚いた様子はなく、ただ少しだけ顔を歪めている。


「どうしてここにいるんですか」


おれと鈴だけにしか聞こえないように、小声で話す。


「……話したい事が、あって」

「俺はないです」


ステージに視線を戻しながら、鈴はそう言った。その鈴の態度が悲しくて、すぐ横まで行き、鈴の腕を掴む。


「……鈴、おれは…」

「俺の事嫌いですよね」

「…え?」

「あんな事無理矢理しておいて、当たり前ですよね」


おれの顔など全く見ず、鈴は話していく。掴んでいた手をやんわりと外された。


「嫌いなら、もう話しかけないでください」

「…っ違、」


再び鈴の腕を掴む。
嫌いじゃない、嫌いなんかじゃない。鈴を嫌いになれるわけない。


「…嫌いじゃない。鈴の事、嫌いになれない」

「どうしてですか」

「……鈴は、一番最初におれに話しかけてくれたから」


それが、どれだけ嬉しかったか鈴は分かっているだろうか。



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あきゅろす。
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