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SMILE!
3



簡単に隠岐の事を話すつもりが、矢野に根掘り葉掘り聞かれた。


「晃雅の奴、馬鹿だな。晃雅は江夏さんの事好きだと思う、絶対」

「……どうして、そう思うんだ」


隠岐が絶対おれの事を好きって、思う、その自信はどこから来るんだ。


「晃雅は江夏さんを傷付けた事、後悔してる。でもそのおかげでべに様がいなくなった。それは変わらない」

「……」

「でも、だから江夏さんをもう傷付けたくなくて、突き放すような事を言っちゃうんですよ」


どうして、おれが傷付くって思うんだろう。そんな事誰にも分からないのに。


「アイツ、素直じゃないから。たぶん自分の気持ち、押さえ込んでるんじゃねぇかな」


親友だから、分かる事。
おれと六のように。


「晃雅の事見てやってください」

「……そんな、事、」


見てくれと言われても、どうすればいいんだ。隠岐には気にするなと、言われたし…
困惑していると、矢野が床に置いていたくまの頭を取り、おれに渡した。


「被って、そこの教室にいてください。晃雅がもう来ると思うし」


近くの教室に押し込まれた。
おれが朝着ぐるみに着替えた教室だった。くまの頭を被り、イスに座る。
もうすぐ隠岐が来るって、なんでわかるんだろう。というか、おれがここで待つ理由はあるのだろうか。
しばらくすると、足音と共に隠岐の声が聞こえた。


「…榊、どういうつもりだ」

「何がぁ?」

「江夏はどこだ」

「さあ。晃雅がああいう人を好きになるとは思ってなかったなあ」


どくん、と心臓が音を立てる。
矢野はわざと言っているんだろう。たぶんおれに聞かせるために。


「晃雅の事だから、背が小さくて可愛い子を好きになると思ってたなあ、俺は」

「何が言いたい」

「外見とかどうでもいいくらい、本気で江夏さんを好きなんだろ」


扉一枚挟んで聞こえる会話に、バクバクと煩く心臓が音を立てる。
手を握り締めてじっと話を聞く。


「なあ晃雅、そうなんだろ?」

「…ああ、そうだ」


隠岐の答えに身体が固まった。


「でも、俺がアイツの側にいるとアイツは傷付く」

「絶対傷付くとは限らないだろ」


そうだ
なのに、隠岐は決め付けている。
隠岐が側にいると、おれが傷付くと。


「いや、絶対だ。俺自身がアイツを傷付ける」

「お前素直じゃないもんな」

「うるせえよ」


隠岐と矢野は笑って話している雰囲気で、ああやっぱり、皆の本当の姿をおれは知らないんだと思い知った。


「素直じゃない晃雅くんは、好きな相手に思ってもない事を言ったり、したりして傷付けちゃうって事か」

「馬鹿みてえだろ」

「いいんじゃねぇの、青春っぽくて。好きな子は虐めたくなるって晃雅らしいし」


…やっぱり隠岐は、おれの事、好きなのか。


「江夏を好きになった事、後悔してる。俺のせいで酷い目に合わせた…だから俺にはアイツを好きになる資格も、側にいる資格もないと思ってる」


初めて聞いた隠岐の本音に、おれは思わずイスから立ち上がっていた。でも、そこから動く事は出来なかった。


「俺より、アイツにふさわしい奴はいる」

「ああ深雪とか?」

「…そうだな、深雪ならアイツも幸せなんじゃないか」

「でも晃雅、俺としては大切な親友の恋を応援してぇんだよ。だから素直になれよ」


その言葉と共に、教室に扉が開いた。小さな視界に隠岐の顔が見えた。



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