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SMILE!
悪友



時間を忘れて、木野と文化祭の話をしていると、突然木野が驚いたような声を出す。
何だ、と思い木野を見ると木野は少し遠くを凝視していた。


「何であの人が、」


あの人?
誰だろうと木野の目線を辿るが、人が多くて分からない。


「……木野?」

「あ、ああ…わりぃ」

「……誰かいたのか?」

「ああ。晃雅に聞いてないか?」


隠岐から?何か聞いたか?
首を傾げると、木野はそうかと言って、視線の先を示す。


「あそこに眼帯の男がいるだろ」


木野が示した場所には、右目に眼帯をした私服の男が一人でいた。
あの男の人が何なんだろう?
知り合いか?


「……知ってる人なのか?」

「…お前の前にべに様の制裁を受けた奴だ」

「………あ、隠岐の」


友達で、紅をつくる理由になった人。
あの人がそうなのか。見た目だけじゃ何とも言えないが、べに様の被害に遭うような人には見えなかった。
顔もかっこいい方だろうし。


「そうだ、晃雅の悪友…矢野榊」


やの、さかき…
その名前が頭の中をぐるぐる回った。木野が、矢野榊の事を教えてくれた。
矢野榊は隠岐より一つ年上、流星と同い年という事。高一の時にべに様から制裁を受け転校した事。
隠岐の大切な親友だという事。


「…あ、目合った」


唐突に木野がそう呟く。
前を向けば、その矢野榊が軽く手を挙げてこっちに来ていた。
……くま、着てて本当よかった


「よお、深雪久しぶり」

「榊さん、どうしたんすか」

「んーいや、晃雅からべに様潰したって聞いたから、見に来たんだよ、この学園がどう変わったのかな」


ニヤリと笑うその人は、全然弱そうには見えない。むしろ、強そうでべに様など気にしなさそうだと思った。


「晃雅は知ってるんすか」

「着いたーってメールはした。というか深雪、可愛いくまさん連れてるな」


話が突然おれの事になり、内心びくびくした。


「あー…まあ、」


ちらりとおれの方を見た木野は、困ったような顔をしていた。
矢野榊におれの事をどう説明すればいいか分からないようだった。


「くまさんはどうでもいいんだけど。深雪、江夏って人どこにいるか分かるか?」


急におれの名前が出てきて、心臓が跳ねた。


「紅の担当だったんだろ?」

「そうっすけど…何で江夏なんすか」

「晃雅がさ、俺よりも酷い目に合わせたって言ってたから、ちょっと話してみたくてな」


隠岐がそんな事言ってたのか。
もう治ったはずの左足のふくらはぎがずきと痛む。
おれは矢野榊の腕を掴み、言う。


「……おれ、です」

「くまさんが喋った…、どうなってんだ?」

「榊さん、くまの中身が江夏っすよ」


木野の言葉に矢野榊はおれを凝視する。


「…え、マジで?」


木野と二人で頷く。
この人と、話さなければいけないような気がした。いつもなら、逃げていた場面だけど、もう逃げない。


「えーっとじゃあ、深雪このくまさん借りるから、晃雅に言っといて」

「は!?オレがっすか」

「おー。晃雅の大切な人は俺が預かったとでも言っとけ」


そう言った矢野榊は木野をおいて、おれの手を取って歩き出した。


「ちょっと!榊さん!」

「ついて来るなよ」


木野はしぶしぶ頷き、おれ達を見送った。
どこに行くか分からなかったが、おれは矢野榊におとなしくついて行った。



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あきゅろす。
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