SMILE!
2
しばらく歩き回っていると、一般の人も入って来て、学園内がさらに騒がしくなった。
小さい子供も多く、くまのおれを見て目をキラキラさせて手を振ってくる。その姿に癒され、手を振り返す。
ずっと同じ場所にいるのも飽き、出店の方を見て回る。
「……あ、」
流星がいた。
クラスメイトと思われる生徒と楽しそうに話している。
周りを見渡す。咲と菊もいて、二人とも着物のようなものを着て歩いていた。笑っておれのすぐ横を通り過ぎて行く。
当たり前だが、おれには気付かない。
流星に視線を戻すと、笑って話していた。見た事ない表情。
きっとおれには見せてはくれない表情だ。
ちゃんと友達いたんだな。流星は留年しているし、あんまり友達というものがいないんじゃないかと勝手に思っていた。
着ぐるみ着ててよかった。
じゃないと、皆の本当の表情が見れなかったと思う。
でも少し寂しさを感じた。
おれには絶対に入れない空間。
生徒でも教師でもないおれには無理なんだ。着ぐるみを着てても、どこか浮いてる気がした。
おれの居場所じゃない気がして、その場から離れた。
俯いて、歩く。
着ぐるみが俯いているなんて、駄目なんだろうけど…
案の定、前を歩いていた人の背中にぶつかった。
「…わりぃ、大丈夫か…って、くま?」
振り向いたその人は木野だった。
いつも通り制服の姿。
どうやって謝ろうかと、慌てていると手を掴まれた。
「もしかして、江夏か?」
…何で分かったんだろう
ちゃんと着ぐるみ着てるよな?
「違ったか?」
そう聞いてくる木野に首を振る。
「……江夏です」
着ぐるみに阻まれて、聞こえるかどうか分からなかった。
でも、狭い視界に木野の笑った顔が見えて、伝わったんだと分かった。
「なにやってんだよ、お前」
笑った木野に着ぐるみの頭をぽんぽんと叩かれた。
おれだって、気付いてくれた。
…少し嬉しかった。
木野に連れられて、近くにあったベンチに座った。
何で分かったんだと聞いたら、木野は仕草と雰囲気と言った。それだけで分かるものなんだろうか。
遠目から視線を浴びていた。理由は分かっている。見た目不良の木野と着ぐるみのくまが仲良く並んで座っている。はたから見て、これ程おかしいものはないだろう。
でも木野は気にしていないようで、いつもと変わらない様子でおれに話し掛けてくる。
「つーか、何でそんな格好してんだよ」
「……頼まれて」
「頼まれてって、お前なぁ。でもま、くま似合ってるけどな」
ありがとうと言うと、また頭を軽く叩かれた。
「……木野は暇なのか?」
「今日はな。オレの当番は明日なんだよ」
「……何してるんだ?」
「いらなくなった服とか売ってる。フリーマーケット的なもん」
きっと、木野の服は人気なんだろうな。すぐ売り切れそうだ。
「明日、暇なら来いよ。江夏ならタダでやるから」
「……いいのか」
「いいんだよ」
「……分かった、行く」
「ああ、待ってる」
優しい笑みを向けられ、少し照れる。無意味にくまの頬の部分をもふもふした手で掻いた。
「なあ、頭取らないのか?」
「……子供の夢が、壊れる」
くまの中身がこんな不気味な男だと知ったら、子供が泣く。手を振ってくれなくなる。
「そうだな。でも、お前の顔が見れないのは困るな」
大神とは違った恥ずかしさを感じた。木野はたぶん恥ずかしいとも思ってないんだろうけど。
聞いているこっちはすごく恥ずかしい。
顔が赤くなっていそうなので、木野の前では着ぐるみのままでいようと思う。
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