SMILE!
2
朝、目を覚ますと隣に寝ていた滝登の姿はなかった。
おれも起きようと、身体を起こした。が、左手が異様に重く見てみるとベルトのようなものが手首に嵌められていた。
きつく嵌められたそれには南京錠がついており、鍵がないと取れないようになっている。しかも、それは鎖で繋がっていてベッドの足の部分に括り付けられていた。
まるで、ペットを繋いでいるみたいだった。
「……な、んで…?」
何で、というよりも、何が起こっているのかが、分からない。
おれが寝ぼけているのか…?それとも夢か?夢にしては、はっきりし過ぎている。
無意味に繋がれた手首を持ち上げたり、下ろしたりしていると閉まっていた寝室の扉が開いた。
「おはよぉ、おかーさん」
制服姿の滝登はにこりと笑って、おれに近づいて来る。
「……滝登、これ…」
左手を軽く上げると、滝登はその手を握った。
「すごくいいでしょぉ?」
「……何で、こんなこと…」
「何でって、おかーさんが一緒にはいれないって言ったから、それなら閉じ込めちゃえば、いいかなぁって思って」
口元を緩めて笑う滝登を、呆然と見つめた。
「これならずっと一緒にいれるでしょぉ」
どうしてそういう考えに至ったのか、おれには分からないが、明らかに間違っている気がする。
「……滝登、違う」
「なにが違うの?ちゃんとご飯もあげるし、お風呂にも入れてあげるよぉ?」
「…違うっ、そういう事じゃなくて…!」
滝登はおれの肩に手を置き、見下ろしてくる。ちゅ、と頬にキスをし、滝登は離れた。
「ボク学校行くから、おとなしく待っててねぇ?」
手を振って、部屋を出て行く滝登を追うが繋がれた鎖に阻まれる。
「…っ滝登!」
「じゃあねぇ」
バタンと扉が閉まり、滝登の部屋にひとり取り残された。
しんとなった部屋で、呆然と立ち尽くす。
「……滝登、」
滝登を呼ぶが、届くはずもなく寂しく部屋に響いた。繋がれた鎖が音を立てる。
鎖はある程度長くて動けるようになっていた。トイレにも行ける。だけど、それだけ。
この鎖をどうにかしなければ、部屋からは出る事は出来ない。
誰かに連絡でも取れればいいが、携帯電話は家に置いてきてしまった。
手首に嵌められているのは革で出来ているから、ハサミがあれば切れるとは思うが、そのハサミが見当たらない。
「…どうすれば…、」
連絡する手段も、何もない。
寝室に戻り、ベッドの近くに座り込む。ベッドを持ち上げれば、鎖は取れる。試しにベッドに手をかけ、持ち上げてみるがびくともしない。
もしかしてこのベッド、固定されてたりするんだろうか…
いくら力がないおれでも、少しくらいは持ち上がるはずだ。なのに無理という事は固定されてるんだろう。
「………駄目だ」
滝登が帰って来るまで、待つしか手段はない。でも、滝登が帰って来た所でどう説得すればいいのか分からない。
「……誰か、」
来ないだろうか…
誰か来る可能性なんて、無いに等しいだろうけど。
ベッドに背を預け、膝を抱える。…おれは監禁されてるのか?
滝登はおれと一緒にいたいが為にこんな事をしている。滝登の一緒にいたいは、毎日一緒という事なんだろうな。じゃなきゃ、こんな事しないだろうし…
毎日一緒って、友達でも恋人でも難しい事なのにな…
「……怖いな、」
人の想いというものは。想って、こんな状況にまでしてしまうのだから。
早く帰って来てくれ、滝登…
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