SMILE!
おかえり
熱を出して、鈴に襲われそうになったあの日から鈴とは全く会えていない。鈴だけじゃなく、生徒会の皆とも風紀の皆とも会っていない。隠岐達も、流星も。
隠岐と流星と、鈴には避けられている気がする。
それに加え、もうすぐ文化祭という事もあり生徒も教師も準備に追われている。
六は会いに来てくれるが、やっぱり忙しそうだった。
確か二週間後が文化祭だったはずだ。学園の雰囲気も、浮かれているようなそんな感じがした。
文化祭には一般の人も訪れるから、生徒も教師も気合いが入っているんだと、前に桐也先生が言っていた。
花壇にも花を植えたから、文化祭に来た人達に少しでも喜んでもらえるといい。
花壇の前にしゃがみ込み、そっと花を触る。
水を受けた花は太陽の光を反射して、きらきら輝いていた。
「……温室にも行かないとな」
花壇の前から立ち上がり、温室に向かう。ゆっくり歩いていると、後ろから呼び止められた。
「おかーさん」
振り向いたそこには滝登がいた。見間違いかと思ったが、違うようだ。
「……滝、登…?」
名前を呼ぶと、滝登は走って来て勢いよくおれに抱き着いてくる。
「おかーさん、おかーさん!」
「……思い出した、のか?」
「うん!」
にこりと笑う滝登に、嬉しくなり微笑む。
「…おかえり、」
「ただいま!」
ぎゅっと滝登を抱きしめ返すと、滝登も負けずに強く抱き着いてきた。
滝登を連れて温室に向かう。
職員室にはもう行ったと言っていたから大丈夫だろう。
本当は授業に行かせなきゃいけないんだろうが、滝登がどうしても一緒にいたいと。久しぶりだったし、今日くらいはいいかと、滝登を連れ温室へと来た。
滝登は温室に初めて来たみたいで、中を探検するように歩き回る。
「おかーさん、これトマト?」
立ち止まった滝登の前の花壇には花ではなく、トマトの苗が植わっている。
「…ああ、よく分かったな」
「うん!ボクね、トマト大好きだから」
「…そうか」
前までは自分の事を名前で呼んでいたのに、ボクに変わったのは大きな変化だろう。
身長もほんの少し伸びた。心も、身体も、成長していた。
「…実がなったら、滝登にもあげるな」
「ほんとに!?」
「…ああ」
「やったぁ!」
温室に何を植えるか迷ったあげく、野菜を温室の一部に植える事にした。
良仁さんに聞いたところ、好きにしていいと言ってくれた。出来た野菜は一番に良仁さんに持って行こうと思う。
「おかーさん、」
「…ん?」
「ずっと一緒にいてくれる?」
おれの手を握る滝登の目は真剣だった。
ずっと?たぶんそれは無理だ。
「……滝登、ずっと一緒にはいれない」
「どうして?」
「…滝登には滝登の人生があって、おれにはおれの人生がある」
「じゃあおかーさんと一緒の人生を送るのはどうすればいいの?」
その質問に驚き戸惑った。
一緒の人生…、
普通だったら、結婚して夫婦になれば一緒の人生を送れるんじゃないかと思う。でもおれと滝登じゃ無理な話だ。
「おかーさんがボクの家に来てくれればいいでしょぉ?」
「…え?」
「そうすれば、ずっと一緒にいれるよねぇ?」
無邪気に笑う滝登におれは何も言えなくなった。
.
[つぎ]
[戻る]
無料HPエムペ!