SMILE!
いじめたい
五人は授業に行ってしまったので、おれも仕事をする事にした。
温室の隣にある倉庫に向かい、少し大きめのバケツを取る。
倉庫の扉を閉めて花壇に向かう。
花は明日植える。だから今日は花壇の草取り。
家から一番遠い花壇に来て、しゃがみ込んで草を抜いていく。
久しぶりだな、こうやって仕事するのは。ちょっと嬉しい。
「……あ、ダンゴムシ」
花壇の縁を進むダンゴムシを指で突くと、ころりと丸まって地面に転がる。ダンゴムシが転がったすぐ近くにアリが行列を作っていた。こういうの見てるの好きだったりする。
たまにアリの妨害したり。
じーっと地面を見つめていたら、すぐ近くに人の気配がした。
見上げると、呆れた顔の岩代がいた。
「……岩代、」
「貴方、子供ですか。アリの行列見て面白いですか?」
素直に頷くと、岩代はため息をついた。
「ちょっと来てください」
おれの二の腕を掴み、岩代は歩き出す。
「…ちょっ、岩代っ」
来てくださいって、どこに
草取りの途中なのに。
離してくれる様子はないので、おとなしくついて行くと、岩代がタバコを吸っていた倉庫についた。
中に入ると、手を離してくれた。岩代はソファーに座ると置いてあったタバコを手に取り、吸い始めた。
「吸います?」
「……いや、いらない」
そう言うと岩代はくすと笑う。
「座ったらどうですか」
ぽんぽんと自分の隣を叩く岩代。
座る所はそこしかなく、仕方なく岩代の隣に少し距離をあけて座った。
「……おれに、何か用なのか?」
「特に、用という用はないですけど」
じゃあ何で連れて来たんだ。
隣の岩代を見ると、ふーとタバコの煙を顔に吐き出された。
「…っ、やめろ、」
「何か虐めたくなる性格してますよね、貴方は」
なんだ、それは。
…確かに、はっきりしないし、見た目も暗いから、虐められやすいけど…わざわざ言わなくてもいいんじゃないかと思う。
岩代は吸っていたタバコをおれの目の前に持ってくる。
「根性焼きでもします?」
「……遠慮する」
「それは残念です」
ふっと笑った岩代はタバコを床に落とし、足で踏み潰した。
「よかったですね、親友と再会できて」
「……ああ」
「そのおかげで生徒会と風紀の雰囲気、最悪ですけどね」
「………、」
岩代の口調からして、おれのせいだと言いたいんだろう
「特に半木はツンツンしてますよ。あと武伊は落ち込んでますし。どうしてくれるんですか、この状況」
どうしてくれるんですか、って言われても…
「…どう、すればいいですか」
岩代の口調が移り、敬語になる。
「知りませんよ、そんな事。ああでも貴方が誰か一人に決めたらいいんじゃないですか?」
「……ひとり…、」
「そうやってふらふらしてるから、駄目なんじゃないですか」
「……でも、おれは、誰が…好きなのか、分からないんだ」
よく分からない。
好きだと思っても、それは恋愛感情じゃない。
「ちょっと質問していいですか」
「……質問?」
「貴方に恋愛感情を持っている人は何人いると思います?」
なんだその質問は。
おれに恋愛感情……、普通に考えれば告白してきた三人。
「……三人…」
「その三人の名前は?」
「……そこまで、言わなきゃいけないのか…?」
眉間にシワを寄せていたら、岩代がタバコを手に取った。
「さっさと言ってください。じゃなきゃ本気で根性焼きしますよ」
「……鈴と矢沼と真樹先生です」
「貴方って結構口軽いですよね」
「…それは、岩代のせいだろ」
脅したのはそっち。
根性焼きなんて絶対嫌だ。だから答えたのに、それはないだろう…
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