SMILE!
2
「余裕で出来る。だけど、八の嫌がる事はしたくないし、俺と八は恋人じゃなくて親友だからな」
「…六」
六の名前を呼んだ時、ガタンとイスを引く音が聞こえ、そっちを見ると鈴が立っていた。
驚いて鈴を見たら、鈴は手を握り締めていた。
「すいません上総先輩、俺先に帰ります」
鈴は早口にそれだけ言うと、おれを一瞬だけ見て食堂から出て行った。
「……あ、」
鈴の表情に思わず、小さく声を漏らす。
つらそうな顔…だけど、怒っているような…悲しそうな顔。
鈴にそんな顔をさせているのは、おれだ。
俯いて唇を噛んだ。おれの行動が鈴を傷付けている。
「八どうした?」
「……なんでも、ない」
「そりゃあ傷付くよねぇ」
突然そう言う流星。
ゆっくり顔を上げると、流星は口元を緩めていた。おかしそうに。
「目の前でそんな行動されたらさ、僕も嫌かも。無意識でも」
「おい佐々、」
桐也先生が止めようとしていた。
六だけが、何の話か分かっておらず不思議そうにしていた。
「楽しそうにしてるから邪魔出来ないなぁって思ったんだけど……八君は僕達といる時は楽しくないの?」
「…っ違う、」
「どうだろうね。だって、」
佐々は立ち上がり、おれの耳元で囁く。誰にも聞こえないように。
全然笑ってくれないよね、と。
それだけ言うと流星は笑って、どこかへ行ってしまった。
「すいません、俺も帰ります」
そう言ったのは矢沼で、走って食堂から出て行った。
傷付けてしまったのは、鈴だけじゃなかった。ちらりと真樹先生を見ると目が合い、笑ってくれた。
「あたしは平気よ。はっちゃんの事分かってるから」
「……真樹、先生」
「やっぱガキだな、お前ら」
と桐也先生は隣に座る加賀谷達を見た。
「悪かったな、ガキで。まだ高校生なんだから仕方ねぇだろ。好きな奴が目の前でいちゃついてて動じない方がおかしいと思うけどな、オレは」
そう言ったのは加賀谷だった。
桐也先生と加賀谷を止めようと交互に見ていると六がおれにしか聞こえないように言う。
「この状況ってもしかして俺のせいか?」
「……六の、せいじゃない」
おれがはっきりしないから。
六に何て言えばいいんだろう?告白されて、おれはそれに答えられなくて…
どうすればいいんだと、頭が混乱した。でも、六には話さなければいけないと思った。
「……六、あとで、話聞いてくれるか?」
「ああ分かった」
何て説明すればいいのか分からないけど、六なら分かってくれると思う。
「お前も動揺してんのか」
桐也先生がそう聞くと加賀谷は鼻で笑った。
「さぁな」
その会話を聞いていた六がぽつりと、
「…何となく把握した」
「……え、」
「お前が、好かれてるって事だろ?」
六は苦笑して、おれの頭をぽんぽんと叩いた。
そのあとは微妙な雰囲気になり、加賀谷達はおれ達より先に帰ってしまった。せっかく仲良くなったのに、また振り出しに戻った気がした。
流星はおれが笑ってくれないと言った。じゃあ、無理矢理にでも笑えばいいのだろうか?
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