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SMILE!
昔の話



食堂は意外と人が少なかった。
寮の食堂に皆行っているんだろうか?
空いている席に座る。向かい側じゃなく隣に座る六に少し笑ってしまった。


「何笑ってんだよ」

「…何でもない」

「なんだそりゃ。ま、いいけど。八、何食う?俺が特別に奢ってやろう」

「じゃあ、僕秋刀魚の塩焼きがいいにゃあ」


前を見ると、流星がにこにこと笑って向かい側に座っていた。


「……流星、」

「お前誰だ?」

「どーもはじめましてだにゃー。佐々流星でーす。八君の友達ですにゃ」


よろしくー、と流星は六と握手している。
なんだろう、この状況。ふと視線を感じて、六とは反対側の隣を見る。隣のテーブルに皆いて、びっくりした。皆、昼ご飯を食べに来ているんだろうけど…
隠岐達は食べに来ないのかな、と思った。紅の食堂でもう食べてるかもしれないけれど。


「へぇ、八の友達ねー。前は友達いなかったのに成長したなぁ」

「…いいんだ、六がいたから」


小さな声で言うと、ぐしゃぐしゃと頭を掻き混ぜられた。


「やっぱ八のこのくせ毛は俺の手を掴んで離さないな」


そう言って更にぐしゃぐしゃにされた。
六の頭の撫で方が好きだった。優しい撫で方じゃないけど、気持ち良くて好き。


「…なんか僕ちょー空気…」


ぽつりと呟いた流星の声は誰にも届いてなかった。


「あ、金武先生だ」


桐也先生を見付けた六は手を振っり、こっちに呼んでいるようだった。


「弥永、」

「一緒に食べません?そっちの先生も」

「いいのか?」

「いいですよ。なぁ、八」


コクンと頷く。
四席しかなかったが、桐也先生は近くの席からイスを持って来て座った。真樹先生は流星の隣に。


「弥永六です、よろしくお願いします」


六は真樹先生に軽く頭を下げた。


「橘真樹よ、よろしく」


六はすぐに打ち解けてしまうからすごいと思う。この六の性格がおれは前から羨ましかった。

頼んだカレーを食べていると、パスタを食べていた六がこっちを見て、ごめんなと言った。
何に対して謝っているのかわからなかった。首を傾げると六は苦笑する。


「お前の事、迎えに行くとか言っときながら俺お前がどこにいるのかすらわからなかった」


六と出会ったのは中学時代、
二年生の後半、六は転校してきた。いつもひとりでいたおれに六は何の躊躇いもなく話しかけてきたんだ。名前が漢数字で一緒だと。
なんだそれ、と思っていた。
だけど毎日のように六は飽きずにおれに話しかけてくれた。それが、おれにとっては嬉しかった。
いつの間にか、六が友達になり親友になっていたんだ。六が側にいる事が当たり前になっていた。
でもそれはすぐに壊れてしまう。
六は三年生の秋、転校してしまった。その時、六は言った、

―必ず迎えに行くから、待ってろよ、八

また、置いていかれるのかと思った。おれは六にまで捨てられてしまうのかと。
でもおれにはどうする事も出来ず、六がどこかに行ってしまうのを泣きながら見送った。
その当時、おれも六も携帯電話は持っていなかったし、連絡を取る手段すらなかった。
それにおれは親戚の家で暮らしていた、その人達に迷惑をかけるわけにはいかなかった。

それから数年、
目の前に六がいる。



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