SMILE!
夏休み
夏休みが始まった。
長期休暇のため、ほとんどの生徒が家に帰る。皆も家に帰る前に、お見舞いに来てくれた。おれの事を考えて、すぐに帰ってしまったけれど。
おれはというと、やっと傷の具合もよくなり車椅子じゃなく松葉杖で歩けるようになった。あと少しすれば退院も出来るらしい。
「よう、八。元気か」
「……桐也先生、真樹先生も」
病室に入って来た桐也先生はおれのすぐ横に立つと、優しく頭を撫でた。
「はっちゃん、元気そうね」
「……はい、だいぶよくなりました」
「そりゃよかった。もうすぐ退院出来るんだろ?理事長ん所行くんだってな」
退院したら、学園に戻るわけじゃなく、夏休みの間は良仁さんの家に行く事になっていた。
「……はい」
「学園、変わるかもしれないわよ、はっちゃん」
「…どういう、事ですか?」
「夏休み入る前の全校集会でね、理事長がこれ以降に親衛隊による被害があれば、親衛隊は廃止するって言ったのよ」
そんな事、言ったのか…
全てが変わろうとしている、おれだけじゃなく学園も。
普通の学校のようになる事が出来るんだろうか?何が普通かなんて分からないけど、皆が笑い合えるような場所がいいと思う。
―side.桐也
八の見舞いの帰り、オレと真樹の間には微妙な空気が流れていた。
「…八、笑わなかったな」
「ええ」
つまらない世間話もした。
それこそ笑えるような。だけど八は一度も笑わなかった。口元を緩める事はあっても、それだけなのだ。
まるで、
「昔に戻ったみたいだ」
昔の八は口数も少なく、笑うこともなかった。今はちゃんと話す、だけど笑顔がない。
八は自分じゃ気付いていない、笑えていない事に。あの事件まで、頻繁に笑っていたのに。
たぶん、理事長とオレ達しか気付いていないだろう。昔の八を知っているからこそ、気付けた事。
「昔よりはマシだと思うけどね」
「まぁな」
昔はオレ達に慣れてくれるまでが大変だった。話しても八は頷くくらいだったし。それに比べると今の八はマシだけど…
「大丈夫よ、笑ってくれるわ」
「そうだな」
時間がかかるかもしれないが、八の傷ついた心を癒せば、笑顔を見せてくれるだろう。
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