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SMILE!
4



顔を赤くした矢沼は口をぱくぱくとさせている。


「…矢沼…?」

「え、あっ、あのっ…え、ええ江夏さんッ!!」

「……はい?」


隣に座る矢沼弟が小声で、嫌な予感…と呟いていた。
緊張した様子の矢沼は握り締めていた紙をおれに差し出す。くしゃくしゃになった紙を受け取り、それを見る。


「……え?」


矢沼から受け取った紙には、好きな人と書かれていた。


「っお、俺は!え、江夏さんが、好きッ―」

「兄ちゃん!!」


矢沼弟ががばりと矢沼の口を押さえ込む。


「わぁ兄ちゃん、俺の事そんなに好きだったんだー、よし行こうかー」


棒読みでそう言った矢沼弟は、おれの持っていた紙を取り、周りの生徒に聞こえないように謝る。


「すみません、こんな所で告白されたら親衛隊とか危ないッスよね。ホントすみません、今兄ちゃん周り見えてないと思うんで」

「…あ、いや…大、丈夫、」


やっぱりあれは…、告白だったのか。


「とにかくゴールして来ます。兄ちゃんの事、嫌いにならないでくださいね」

「…そんな、事…、嫌いになんかなるわけ、ない」


ありがとうございますと矢沼弟は笑ってから、ゴールに向かって歩き出した。矢沼の口を押さえ、引きずりながら。
好きだと言われて、嫌いになるはずがない。
だけどどうしよう…また、告白。
矢沼の事、嫌いじゃない…好きだけど、それは恋愛感情ではない。真樹先生も鈴も一緒。
頭を抱えていると、矢沼兄弟が帰って来た。矢沼はさっきと一変し、顔が真っ青だ。


「ほら兄ちゃん、謝れよ」

「うっ…、あ、の江、夏さん…、さっきは、すいませんでした」


しょんぼり落ち込む矢沼。
大丈夫なのに。


「ちゃんと話してくれば。兄ちゃんしばらく出ないんだろ」


矢沼弟の言葉に頷く。矢沼も渋々頷いた。





―side.武伊



スタートラインに立った瞬間、緊張した。それに、江夏さんが見てると思うと余計に。
バクバクと鳴る心臓を抑えつつ、スタートした。
係の人が持つ箱から、一枚だけ紙を取る。それの紙に書かれた文字を見て、俺は固まった。だって好きな人って書かれていたから。

それからは、江夏さんしか視界に入らなくなった。周りに誰もいないんだと、錯覚を起こした。
頭の中は、江夏さんでいっぱいになって、伝えなきゃ、今伝えなきゃ、とそれだけになっていた。
体育祭中に告白なんかしたら、危ないのは江夏さんなのに。軽率な行動をしてしまった。

武汰が止めてくれなかったら俺はあのまま告白していた。ゴールしたあと、武汰にげんこつされた。
何をやってるんだ、兄ちゃんの馬鹿、と。

競技終り、江夏さんに謝りにいった。武汰がいなかったら、きっと俺は逃げ出していた。絶対に。
話しをしてこいと、武汰に言われ江夏さんと人気のない所に移動している今も、少し…いや、かなり逃げ出したい。

でも、駄目だ。いつまでも逃げていたら、一生この気持ちは伝えられない。
逃げるな、俺



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