SMILE!
練習
ありがとう、と微笑む香西はとても綺麗だった。
「そろそろ練習始まるんじゃないのかにゃ?杏くんは早く着替えておいで」
流星の言葉に香西は頷き、寮へと戻って行く。
ちなみに、流星と和泉はすでにジャージ姿だ。
「八くん、行こうか」
「……ちょっと、待ってくれ」
ひっつく流星を剥がして、燃え残った家に足を踏み入れる。
流星は入ってくることはなく、外で待っている。
歩く度に、バキと木が割れる音が響く。何か残ってるかもと思ったが、ほとんど黒く焼け焦げていて、使えそうにない。
そもそも物が少ない。
「ハチ公、」
振り向くと和泉が、入って来ている所だった。
さっきまでの和泉と違い、なんとも情けない顔をしていた。
「……和泉…?」
「すまなかった」
何がだ?
和泉が何に対して謝っているのかが、分からない。
「……何で、謝ってるんだ…?」
「ハチ公の気持ちを考えていなかった。ハチ公に教えても意味がないと思っていた。これは私達の問題だからと……だが、実際はハチ公の問題で、」
「それは、違う。…おれの問題だけど、お前達の問題でもある」
「…そう、だな。…駄目だな私は…何もわかってない、ハチ公の事を」
「……だって、それは和泉には、何も教えてない、から」
和泉だけじゃなく、皆に言える事。本当におれの事を知っているのは、良仁さんと桐也先生、真樹先生くらいじゃないだろうか。
「…本当に、変わったみたいだな、ハチ公は…。気付くのが遅すぎたか…」
悲しげに呟く和泉の言葉は、おれには届いていなかった。
「ハチ公…、」
おれの手首を掴んだ和泉は、じっと見つめてきた。
何なんだと、疑問に思っていると手首を掴む力がほんの少し強くなった。
「教えてくれないか?何でもいいから、ハチ公の事を」
「……おれの事…?」
「ああ。好きな食べ物でも、花でも色でも何でもいいんだ」
私に教えてくれないか?と和泉は真剣な顔をしているから、おれは思わず頷いていた。
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