SMILE! 2 矢沼が出て行った扉を見つめていると、名前を呼ばれた。 「八さん、」 後ろを振り向くと、鈴が笑って立っていた。 「……鈴、」 「手伝ってもらっても、いいですか?」 断る理由はない。それに手伝うために連れて来られたんだ。 「……ああ。何をすれば、いいんだ…?」 「えーっと…とりあえず、散らばってる書類を整理してもらっていいですか?」 頷いて、テーブルに散乱する紙を一枚手に取った。床にも落ちていて、しゃがみ込んで拾っていく。 「…八さん、傷大丈夫ですか?」 隣にしゃがみ込んだ鈴は、おれの顔を覗き込む。 楢木先生に殴られた傷を言っているんだろう。一日経ったからなのか、さほど痛くない。触れば痛いけど、触らなければ大丈夫だ。 「……大丈夫だ。あんまり、痛くない」 「それなら、よかったです。あの八さん、首どうかしたんですか?タオル巻いてますけど…」 まさか、それを言われると思っていなくて固まった。 何て答えればいいんだろうか… 噛み跡があるからタオルを巻いているんだ、とは言えない。 ……言いたくない。 「……、」 何て言えばいいのか分からず、口を閉ざしていると、鈴の手が首に伸びた。正確には、首に巻いているタオルに。 「…っ、ダメ、だ」 その鈴の手を振り払う。 「…どうしてですか?」 「……それ、は…、」 タオルをぎゅっと握る。 パラパラと紙をめくる音と、何かを相談する声。たぶん、おれと鈴の会話は誰にも聞こえていない。 再び鈴の手が伸び、今度はおれの手首を掴んだ。立ち上がった鈴につられて、おれも立ち上がる。 「咲、外出て来る」 鈴はそれだけ言うと、おれを引きずるように会議室を出た。 「……っす、鈴…!」 「すみません、黙ってついて来て下さい」 心なしか、鈴の声が冷たかった。 手首を掴む力も強くて痛い。 怒っているんだろうか?あの短い間に、おれは鈴を怒らせてしまうような事をしてしまったんだろうか? 鈴が何を思って、何を考えているのかが分からない。 他人の思考が分かる方がすごいだろうけど、少しくらいは相手の気持ちが分かるはず。 だけど、おれには少しも鈴の気持ちが分からなかった。 . [まえ][つぎ] [戻る] |