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SMILE!
2



「…っ離……ッ」


抵抗をしようとすると、楢木先生は殴ろうと手を振りかぶる。衝撃に耐えようと、ぎゅっと目を閉じた。


「楢木先生、何をしているんですか?」


怒りを含んだ声が聞こえた。
髪を掴んでいた手が離れ、おれはその場に座り込む。


「い、和泉っ」


少し離れた所に和泉がカメラ片手に立っていた。


「何をしているのか、と聞いているんですが?」

「ち、違う!私はっ」

「教師が用務員を殴るとは、言語道断ですよ。理事長に報告させてもらいます、そこから一歩も動かないで下さい」


冷めた口調で言い放ち、和泉はおれの方に近付いて来た。


「ハチ公、大丈夫か」

「……シ、マ…シマ」


自分の事なんてどうでもよくて、少し離れた所にいるシマに近付く。震える手でそっとシマに触った。トクトクと小さく心臓が動いていて安心したが、目を覚ます気配はなかった。

どうしよう、どうしよう、
このままじゃ、シマが
ポタリと鼻血がシマの身体に落ち、まるでシマから流れてるように見えた。
嫌だ、いや…、死なないでくれ
その時ふと、思い出した。


「和泉っ、但馬を呼んでくれ!」


おれじゃ何も出来ないけど、但馬なら何とかしてくれるかもしれない。


「但馬?…そういえば但馬の家は動物病院だったか」

「…っ頼む、早くしないと、シマが…」

「わかった」


和泉はブレザーのポケットから携帯電話を取り出して、誰かに電話をかけた。相変わらずシマは目を閉じたままだ。


「…依鈴か?」


電話の相手は鈴らしく、電話越しに微かに鈴の声が聞こえた。


「今すぐ但馬を連れて来い。それと一沙と日向もだ。場所は…」


和泉は必要な事を鈴に伝え、電話を切った。シマをじっと見ていると、くしゃりと頭を撫でられた。


「…いず、み」

「大丈夫だ、すぐに来る」


コクンと頷き、またシマに目を向ける。流れる鼻血をぐっと袖口で拭う。
おれのせいだ。全部。
涙が滲みシマがぼやけて見えた。泣いてもどうにもならない。涙が流れ落ちないよう必死に、我慢した。


「…ハチ公、」


和泉がおれの名を呼ぶと同時に楢木先生が叫ぶように声を上げた。


「そいつが悪いんだ!!邪魔をするからッ!お前もっ、その汚い猫も死ねばいいんだ!!」


パキと頭の中の何かに、ヒビが入ったような気がした。
おれの事なら何を言われても平気。今までずっとそうだったから。
他の人にとっては、たかが猫かもしれない。だけどおれにとっては大切な家族なんだ。

許せない。
その感情だけが、ぐるぐる頭の中を回っていた。



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