SMILE!
小さな命
仕事を休むと暇で何もする事がない。
家にいても変わらないから、おれはシマと一緒に散歩に行く事にした。仕事じゃないから、つなぎじゃなくパーカーを着て外に出た。
少し離れて歩くシマは、楽しそうな雰囲気。
「…大きくなったな」
拾った時は、今の半分くらいしかなかったのに成長が早い。小さい頃のシマを思い出し軽く微笑む。
その時、後ろから1番聞きたくない声が聞こえた。
おれを呼んでいるその声に、逃げ出したくなった。だけど、身体が動かない。
振り向く事も出来ない。
「こんな所にいたのか、江夏」
ポンと肩に手を置かれ、ビクリと身体が跳ねる。
肩に置かれた手に力が入る。ギリギリと骨が軋む。
「…っ、」
身体の震えが止まらない。
心配そうにおれの足元をウロウロするシマにも構っていられない。
気持ち悪くて、吐きそうだ。
「来なさい、」
おれの耳元で、楢木先生が囁く。
嫌だ、嫌だ。またあんな目に合うのは嫌だ。
「……い、や…です、」
俯きそう言うと、楢木先生はおれの髪を鷲掴み、頬を殴りつけた。
さっきの衝撃で咥内が切れたらしく、口の中に血が広がる。
掴まれた髪が痛い。殴られた頬が痛い。痛みに涙が滲んだ。
シマの威嚇する声が聞こえて、目線をそっちに向けると、シマが楢木先生の足に爪を立てていた。
「…っ、シ、マ…!」
おれの声はシマに届いていないようだった。毛を逆立てて、ずっと威嚇している。
楢木先生はシマを追い払うように足を動かすが、それでもシマは離れなかった。
「っ何なんだ!この猫は!邪魔だッ!!」
足に爪を立て威嚇していたシマを楢木先生は、蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたシマは、近くの木に鈍い音を立ててぶつかり、地面に転がった。
ぐったりと動かないシマに、ドクリと心臓が鳴った。
「……シ、マ…シマッ!」
シマの所に行きたくても髪の毛を掴まれていて、行けない。
ぶちぶちと何本か抜ける音が聞こえたが気にしてられなかった。
「…っ離せ…!」
敬語なんか使ってられない。
がむしゃらに暴れる。
「っおとなしくしろ!!」
バキッ、と鈍い音がして脳が揺れた。
息を荒くした楢木先生に、さっき以上の力でまた殴られた。二度も殴られた左頬がジクジクと熱を持って痛む。その上、鼻血も流れ落ちた。
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