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SMILE!
家族



夕方までぶっ続けて、温室を片付けたが、まだ半分程しか終わってない。
割れていないガラスに背中を預けて座る。


「………、」


胸ポケットに入れていた携帯電話を取り出して、電話帳を開く。
白い携帯電話が血で汚れてしまいそうだったけど、気にならなかった。
電話帳の相手の名前を見つめる事、数十分後、思い切って通話ボタンを押した。


《…はい、》


相手はすぐに出てくれた。久しぶりに聞いた声に泣きたくなった。


「……っ…、」


何て言えばいいのか分からず、黙っていると電話の向こう側の人はクスと笑った。


《八君?初めてだね、電話くれたの。……何かあったのかい?》

「……っあ、あの、」


もしかしたら今、仕事中だったかもしれない。最近は忙しそうだったし…


「……い、ま…仕事中…ですか」

《ああ、もうすぐ終わる所だよ》


やっぱり仕事中だった。
何してるんだろう、おれ。急に電話かけて何も言えなくて、絶対迷惑かけてる。


《八君…?》

「……な、んでも…ないです…。すみません…」


そう言って良仁さんが何か言う前に、電話を切った。
携帯電話を胸ポケットに戻し、膝を抱えて顔を埋める。

会いたい。
声、聞かなければよかった。聞いてしまったら会いたくなる。
おれの事を、全部分かってくれる大切な唯一の家族。

家族ってどういうものを、どういう関係をそう言うんだろうか?
良仁さんはおれに家族になろうと言ってくれた。
でもおれの本当の家族は、

―すぐに戻ってくるから、いい子にして待っててね
―ちゃんと待ってるんだぞ

待ってた。ずっと待ってた。
なのに、母親と父親は二度と戻って来る事はなかった。事故死とか、そんなんじゃない。おれがいらないから、邪魔だから
…おれは、捨てられた。

今思えば、最後の家族の思い出にと、両親はおれをあんな場所に捨てたんだろうと。
たくさんの家族と恋人達が賑わうその場所でずっと待っていた。ひとりで待っている内に、ザワザワと楽しく話す声が、笑う声が、叫ぶ声が、嫌になった。

うるさくて、堪らなかった。
頭が痛くてその場所から逃げ出したいのに待っててねと両親の言葉がおれを戒めた。

遠くで観覧車が、夜空に輝いていた。遊園地って、楽しい場所じゃなかったっけ?

それは、おれが六歳頃の話。
おれは両親に遊園地に置いていかれた。



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