SMILE! 2 「どうして、何も言ってくれないんですか。俺は頼りないですか」 そんな事ない。頼りないとかそんなんじゃなくて、言えないんだ。 「……そうじゃ、ない…」 「あの時、約束しましたよね。無茶はしないって。どうして、昨日食堂に来たんですか」 「……それは、隠岐が…、」 隠岐の名前を出すと鈴はおれの肩を掴み、ちょっと怒ったような顔で見つめてきた。 「…八さんは隠岐の言う事は聞くんですね」 え…? 鈴の様子がおかしい。ギリとおれの肩を掴む手に力が入る。その痛みに顔をしかめる。 「本気で抵抗すれば、食堂にだって来なくて済んだはずです」 確かに、そうかもしれない。おれがしっかりしてれば、あんな事にはならなかった。 初めて鈴に責められた。おれが悪いんだと。 「それに…っ」 唇を噛み締め、何かに耐えようとしている鈴に声をかけた。 「……鈴?」 「っすみません」 何に対して謝っているんだと思っていたら、鈴がおれの頬を包み込み…、一瞬唇が触れ合った。 「……なんで、」 どうして、キスなんか… 鈴を見れば苦笑していて、でもどこか悲しそうだった。 「…消毒、です。すみません、俺戻りますね」 引き止める言葉は見つからない。ただ、鈴の後ろ姿を無言で見送った。 ―side.依鈴 ……やってしまった。 八さんと別れた俺は、とてつもない後悔に襲われていた。どうしても、自分自身を制御する事が出来なかった。 それはやっぱり、昨日の食堂での事が原因。まさか、隠岐が八さんにキスするとは思わなかった。 あれを見た時、心をぐちゃぐちゃに掻き乱され、イラついた。 隠岐にも、八さんにも。 八さんが悪いわけじゃないが、抵抗をしない八さんに腹が立った。 今日、八さんに会った時はイラついていた事も忘れていたが、八さんの口から隠岐という名前が出た時、またイラついて抑える事が出来なかった。 八さんを責めて、触れるだけのキスをした。あれだけで終わらせた自分を褒めてやりたい。 キスをした時の驚いた顔をした八さんが忘れられない。きっと俺にキスされるなんて思ってもいなかったんだろう。 それはそれで悲しい。 ああ、どうしようか…次会う時、どんな顔して会えばいいんだ… 深くため息をついて、風紀管理室に戻る。 . [まえ][つぎ] [戻る] |