SMILE!
頼る
温室の前で、シマはどこかへ行ってしまった。本格的に一人になって、ちょっと寂しくなりながらも、温室に入ると、人がいた。
それはもちろん鈴で、おれに気付いた鈴は微笑み近付いてきた。
「八さん」
「…来てたのか」
「はい。昨日事も心配でしたし、八さんにも会いたかったんで」
おれに会いたかったって、おれに会っても何もないのに。
「大丈夫でしたか?ヤケドしたみたいですけど…」
「……ああ、大丈夫だ」
よかったと鈴は微笑み、おれの頭を撫でた。心配してくれたのか、と思うと嬉しくなった。
「水やり、俺がするんで八さんは座ってて下さい」
「……え、でも」
「いいから座ってて下さい。足、少し庇ってますよ、痛いんですよね?」
確かに、牛乳に踏まれてから痛くなったけど…それは立ってても、座っててもあんまり変わらない。
無言で鈴を見つめると、鈴はおれをイスに座らせた。
「じゃあ言い方を変えます。俺が水やりしたいんで、やらせて下さい」
きっぱりとそう言われたら、おれにはどうしようもなくて、しぶしぶ頷いた。
何度か水やりを手伝った事もある鈴は、手慣れた様子で温室の植物に水をかけていた。
その鈴の姿をぼーっと眺める。眺めつつ、考えるのは荒らされた花壇の事。
あのままにしておくのは嫌だから、昼から花壇を片付けよう。何も植えられないのは悲しいけど、また荒らされるよりはマシだ。
いつになったら、親衛隊からの制裁は終わるんだろうか?
まだ始まったばかりだ、これだけじゃ終わるはずがないと、深くため息をついた。
「八さん?」
水やりを終えた鈴がおれを覗き込んでいて、びっくりした。
「すみません…驚かせて」
「……いや、大丈夫だ…終わったのか?」
「はい、終わりました。……八さんちょっと立ってもらっていいですか」
不思議に思いつつも、鈴の言う通りイスから立ち上がると、鈴に抱きしめられた。
「座ってると抱きしめにくいんです」
「……す、すず…」
くすりと耳元で鈴が笑う。
「もう少し、俺を頼ってくれませんか」
さっきまでの雰囲気はなくなった。鈴の声が真剣で、少し戸惑う。
あの時と、赤塚を助けた時と同じような状況。あの時は鈴に怒られた。
「……鈴、」
「俺は嫌です。八さんが俺の知らない所で傷付く事が嫌なんです」
抱きしめる力が、ぎゅっと強くなる。
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