SMILE!
3
「……但馬、」
「なんやー?」
何とか抱き着くのは止めさせたが、但馬の左手はずっとおれの頭に乗っている。右手は但馬の膝の上で寝ている牛乳を撫でている。
シマはおれの左隣でおとなしく座っている。
「……手、」
「手ぇぐらい許してーな」
「………、」
手くらいと、言われてしまえば、何も言えない。
「…ヒドイなぁ」
突然何を言い出すのかと思えば、但馬の視線は荒らされた花壇に向いていた。
「ポチ、しばらく花は植えん方がええ。荒らさるんがオチや」
少し悲しい気持ちになりながらも、コクンと頷いた。
「ちょ、そんな落ち込むん止めてーや」
オロオロする但馬。
そりゃほんの少し落ち込んだけど、相手に分かるような落ち込み方はしていない。
「……なんで、分かるんだ」
「何でて、悲しそうな顔しとるし。ポチって顔にあんま出らへんけど、よく見たら分かるで」
ぐしゃっと頭を撫でられ、但馬はおれの頭を抱き寄せた。
「……あ、あの…た、じま?」
今度はおれがオロオロする番。
「オレん家は、動物病院やから子供ん頃からずーっと動物と関わっとる。だから動物の気持ちには敏感なんやで」
それはおれが動物だという事だろうか。根本的に考えれば、人間も動物だけど…
「ポチはホンマ犬に似とるからなぁ」
但馬は優しくおれの髪をすく。
「……但馬、」
「ポチは感情出すの苦手なん?」
苦手、そうかもしれない。
いつの間にか……いやあの時から、あまり感情は出さなくなった。
理由はひとつ、感情を表に出してしまえば迷惑がかかってしまうから。
「……迷惑が、かかるし、」
「それは違うで。感情を出すから相手に気持ちが伝わるんや。それに迷惑はかけるためにあるんやで。犬はなぁ、自分の気持ちを隠さへん」
但馬は、膝の上の牛乳を愛しそうに撫でる。
「さっき無駄に、はしゃぐ言うたけど、それが犬の感情表現や。わかりやすいやろ?」
にこと笑う但馬。
おれは、わかりにくいだろうか
「…おれは、わかりにくいか?」
会ったのは二度目の但馬にこんな事を聞くのはおかしいかもしれない。だけど、何故だか但馬は他の人よりも話しやすかった。
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