SMILE!
2
「ぎゅうにゅうー!」
そんな叫び声が聞こえた。それに聞いた事のある声。
校舎の曲がり角から現れたのは、但馬だった。
「あー!ポチー!!牛乳もおるやんけー!」
走って近寄る但馬。
牛乳ってこの犬の名前、か…
もっとマシな名前はなかったんだろうか…
「……但馬の、犬なのか…?」
「そうやで。…あー、でも牛乳の事、秘密な。バレたらコイツ学園から追い出されてまうやろ?」
誰にも話してないんだろうか?
良仁さんに話せば、それなりに対応してくれるはずだ。
「学園の前で拾って、家に連れて帰ろう思うたんやけど、コイツ学園から離れたがらんのや」
今だにおれの後ろに隠れている犬…牛乳を撫でる但馬。
その顔は幸せそうで、加賀谷が言ったように本当に犬が好きなんだな、と感じた。
「……理事長に、話してみたら、どうだ…?…おれも、シマを飼うの、許してもらってる、から…」
シマを示すと、但馬はキラキラした目でおれを見つめてくる。
「ホンマに!?」
コクンと一度頷くと、但馬は嬉しげに、今度話してみるわ、と笑った。
牛乳は元気を取り戻したのか、またしてもおれに飛び付いて来る。
「ポチ、牛乳に好かれてんなぁ」
「…た、但馬…その、どうにかしてくれ」
牛乳を指差すと、但馬は首を傾げた。
「何でや?」
「……いや、あの…犬…苦手、なんだ」
おれの言葉に但馬はポカンと口を開け、間抜けな顔をした。
「…え、そーなん?ポチ、犬好きそうな顔しとるで?」
どんな顔だ。嫌いではない。ただ苦手なんだ。
可愛いと思う。でも、それは遠くから見た場合のみだ。
「何で苦手なん?」
「……吠える、し…、無駄に、はしゃぐから…」
犬が好きな人なら堪らなく嬉しい行為かもしれないが、おれにとっては、苦手なものだ。
何が嬉しくてそんなに、はしゃぐ必要があるんだと思ってしまうのはおれだけだろうか?その点猫は、はしゃがないし、無闇に近寄って来ない。
「吠えるて…、それは犬の仕事やで。番犬が吠えんやったら意味ないやろ…」
「……苦手な、ものは苦手だ」
ツンと但馬から顔を反らす。
「ポチかわえぇっ」
「……っぅわ、」
ぎゅうっとおれを抱きしめた、但馬にわしゃわしゃと頭を雑に撫でられた。
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