SMILE!
好きなもの
生徒会室に戻るという矢沼と共に部屋を出たのはいいが、隣にいる矢沼は落ち着きがなく、きょろきょろと視線を動かし、更にはあー、うーと何やら独り言を言っている。
「……矢沼…、」
「っはひ!!ななな何ですかっ」
バッとおれの方を見る矢沼の顔は赤く、どこか具合でも悪いのかと思ってしまう程だった。
「……生徒会室は、どこだ…?」
「あああ、あっちですっ」
矢沼は前方を指差す。
生徒会室は奥の方にあるらしい。今いる場所からは見えないが。
「あっ、あああのっ」
「……ん…?」
話しかけてきた矢沼の顔は、相変わらず真っ赤だった。
「え江夏さんって……、すすすすすすっ、」
す?
矢沼は何を言いたいんだ?
「すっ、好きな…っ、」
「……好きな…?」
目を合わせると、矢沼は慌てて俯いた。
見たらいけなかったのか?
「っ好きな……、食べ物って何ですか」
好きな食べ物…、特にないなと思って矢沼を見ると矢沼は何故かしょんぼりしていた。
特にない、なんて答えると矢沼が余計にしょんぼりするんじゃないかと思った。
考えて考えぬいた結果、
「……りんご」
ぽんと矢沼の頭に手を置き、軽く撫でる。
真っ赤な顔はまるでりんご
「っ、うわぁぁあ!!ああありがとうございますっ、ごめんなさーい!!」
矢沼はそう叫び、生徒会室の方へ走り去った。すぐに矢沼は見えなくなった。
「……、」
何だったんだ…
頭にハテナを浮かべながら、おれもそこをあとにした。
―side.武伊
ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!
誰もいない生徒会室に勢いよく入り、その場に座り込む。
顔が熱い。
江夏さんに触れられた
もう…、死んでもいいかも…って、死んじゃダメだ!
依鈴は江夏さんに惚れてる。絶対に渡したくない。依鈴とそんな事を話したせいか、心配になって江夏さんに、
好きな人はいますかと、聞こうとした。
だけど、無理だった。
恥ずかしくて、何も聞けなかった…いや、好きな食べ物は聞けた。
りんご。
今度江夏さんに会いに行く時は、持っていこう。
…喜んでくれるといいなぁ
依鈴みたいに八さんって呼んだり、すらすら話せないけど俺は俺のやり方でやっていく。
それで、いつかきっと…気持ちが伝わる日がくるといい。
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