SMILE!
2
「…お母さんに、折り方…教えてもらったのか…?」
「っうん。お母さん、病気だから、千羽鶴作ったら治るって言ったもん…」
ぽんぽんと背中を優しく叩く。
ぎゅうっと腰に抱き着いてきて、少し苦しかったが、嫌な気はしなかった。
戸谷のお母さんは病気で、千羽鶴を作ったら病気は治るとそうお母さんに言われたんだろう。だから、お母さんに鶴の折り方を教わって、
「でも、間に合わなかったぁ…」
「……間に、合わなかった…?」
「お母さん死んじゃったの!」
ボロボロと涙を流す戸谷。
思わず、背中を叩いていた手を止める。
「あと少しだったのにぃっ!…お母さん、死んじゃったぁ…」
「……、」
「だからっ、お母さんもう、いないけどぉ……たくさん、たくさん作ったら、天国のお母さん、喜んでくれるかなぁって……っうぅ」
堪らず、戸谷を抱きしめた。
この世にはもういない母親の為に、たくさんの折り鶴を贈る。
辛いはずなのに、喜んでくれると信じて戸谷は鶴を折り続けた。
「でも、ふぅに……つまんないって…!つまんないっていわれたらどうしようもなくてぇ……辛かったのぉ…っ」
声を上げて泣く戸谷を、強く抱きしめて安心させるように呟いた。
大丈夫だから、と。
「……つまんなく、ない」
「っ…?」
ぽんぽんと頭を叩き、撫でる。
「……きっと、お母さんは…喜んでる」
「ほんと、にぃ…?」
「…ああ、でも、」
戸谷をやんわりと離し手を取る。細くて白い手は、小さな傷がたくさんあった。折り紙で切ったりしてるんだろう。
「…こんな、傷を…作ったら駄目だ。お母さん、悲しむ」
「お母さんがぁ…?」
「…ああ。だから…鶴は一日ひとつ作れば、いい」
それだけで充分。
「それだけで、いいのぉ?お母さん、喜ぶのぉ?」
一度頷くと、戸谷は嬉しそうに笑った。
「……戸谷…なんで、おれにお母さんの話、してくれたんだ?」
はじめて会って、まだ少ししか経ってないのに、そんな事赤の他人のおれに話せるか?
戸谷はぎゅっと、おれの手を握ると屈託のない笑顔を浮かべた。
「おかーさんからは、お母さんの匂いがしたからぁ」
匂い、か
五十嵐もおれからは太陽の匂いがするって言ってたな。
自分ではよく分からないけど。
「おかーさんは、滝登って呼んでぇ?」
「……いや、でも」
「っいやなのぉ?」
うるうるした目で見つめられれば、負けるのはおれ。
「……滝、登」
「おかーさん、大好きぃ」
ぎゅうっと首に抱き着く滝登。
仕方がないとしばらくそのままにしておいた。
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