SMILE!
岩代日向
五十嵐を探しながら歩く。
ここが一階でよかった。そうじゃなかったら、確実に迷っていた。
方向音痴という訳じゃないが、校舎の中に入る事なんて滅多にない事だから、迷う。
先程、五十嵐に連れて行かれた食堂は、紅専用らしくて、おれ達二人と料理を作る人達しかいなかった。おれが作るものとは大違いで、さすがお金持ちの学園だなと思った。食堂に来る事が出来て良かった。
五十嵐と入って来た所と同じ所から、外に出る。
「……」
鈴は、何であんな事をおれに言ったんだろう…?
好きな人がいる、なんて。好きな人がいるっていう事は幸せな事だと思う。
でも鈴は少し辛そうだった。おれの気のせいかもしれないが。鈴が幸せになれるといい。
「……あ、」
50m程先に、赤塚と一緒にいた生徒会の人が一人で歩いていた。
確か副会長の、岩代?だったはずだ。指輪を返すいい機会だと思い、岩代の後を追った。
五十嵐は明日返せと言っていたけど、やっぱり大事なものだろうし、今日返した方がいいだろう。
岩代の後を追って行くと、岩代は今は使われていない倉庫に入っていった。
「……?」
こんな所に用事でもあるのか?
ほとんど生徒も近づかないような、寂れた倉庫に。
岩代の後を追い、倉庫に入る。
使われなくなった用具が無造作に置かれていた。そこに岩代の姿はなく奥に扉がひとつあった。きっとその中に岩代がいるんだろう。
思いきって、その扉を開ける。
思っていたよりもその部屋は広く、綺麗だった。岩代は大きくて真っ白なソファーに足を組んで座っていた。
赤塚と一緒にいた時とは違う雰囲気。
だって、岩代の手には
「何の用ですか?」
タバコ。
おれが呆然と岩代を見ていると、岩代はソファーから立ち上がり、近付いて来た。
タバコを床に落とし、踏み潰す。
「聞いてます?何の用だと言っているんですが、」
「……、」
近付いて来た岩代は、おれの襟を掴み壁に押し付けた。
「ここで、見たこと誰にも言わないで下さいね」
口調と合わない低い声。
「……っ、」
見た目はすごく優しそうなのに、これなら、木野の方が優しい。
岩代はおれから手を離すと、ソファーに座り、ソファーの隣に置いてあった小さなテーブルからタバコとライターを取った。タバコに火をつけ、口にくわえた。
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