SMILE!
3
「指輪取ろうなんて思ってませんから、安心してください」
指輪なんて、必要ない。それに指輪取ったりしたら、八さんが困るだろうしな。
「…あ、りが…とう」
お礼を言う八さんの頭を優しく撫でる。
「八さん、」
「……?」
「俺、好きな人がいるんです」
何で、こんな事を八さんに話しているんだろう。
俺の好きな人は貴方なんです。と言えたら楽だと思う。でも、まだ言えない。八さんは俺の事、意識してないだろうし…
それに俺は金武が言うように八さんの事何も知らない。
「でも、俺その人の名前と歳ぐらいしか知らないんです」
あとは何の仕事をしているか、そのくらい。
「…でも、鈴は…その人が…好き、なんだろう?」
何も知らなくても、想いは伝わると思う、そう八さんは言った。
そんな事を言われるなんて思っていなかった。
「…っ、そうですよね」
八さんの肩に頭を置くと、八さんは心配そうに俺の名前を呼んだ。
「暫くこうしててもいいですか」
八さんは返事をする代わりに、そっと俺の頭に手を置いた。
その行為はぎこちなかった。だけど、それが八さんらしくて、嬉しかった。ずっとこのままでいたいとそう思った。
何も知らなくても想いは伝わる、と八さんは言った。だけど、八さん…俺は貴方の事を知りたいと思ってるんです。
「…八さんは、好きな人とかいないんですか」
八さんの肩から顔を上げて、目を合わせると八さんはポカンとしていた。
「…は…え?…好きな、人?」
「はい。いないんですか?」
「…いな、い……好きって、いう感情が、よく…分からない」
いたらいたで、問題だけど…好きの感情が分からないか。そっちの方が問題だよな。
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