SMILE! 2 五十嵐もシマの隣に座った。とりあえずおれは水やりをする。 近くの水道から水をジョウロに注いで、ゆっくりと花に水をやる。 「……名前、八…?」 えっと、おれの名前は八か、って聞いてるんだよな…? 「……ああ」 何となくだが、五十嵐の言葉が分かるようになった。なんか、ちょっと……おれと似てるから。 「……っわ、」 地面に躓いて、五十嵐にバシャリとジョウロの水がかかった。シマは先に逃げていたらしく、2mくらい離れた所に座ってこっちを見ていた。 五十嵐の髪から、ぽたぽたと水滴が落ちる。 「……冷たい、」 「…わ、悪い。大丈夫…、じゃない、よな…」 濡れたままじゃ駄目だと思い、五十嵐の腕を掴み、立たせる。 「……なに、」 「…タ、オル…貸すから」 今度はおれが五十嵐を引っ張って、家まで連れて行く。シマもおれ達の後ろをついて来ていた。 「……どこ、行く?」 「…おれの、家」 五十嵐はそれだけを聞いて、家に到着するまでは一言も話さなかった。 五十嵐を椅子に座らせおれはタオルを洗面所に取りに向かう。シマは五十嵐の膝の上に座っていた。 タオルを手に戻ってくると、五十嵐は結んでいた髪を解いていて、黒髪が風に靡いていた。 「……タオル、」 五十嵐にタオルを渡すが、受け取ろうとしない。その間もぽたぽたと水滴が落ちる。シマの頭にも水滴が落ちる。 「……拭いて」 「……お、れが…?」 うんと頷く五十嵐。 五十嵐は自分で拭く気はないらしい。仕方なく、おれが拭く事に。五十嵐の頭にタオルを置いて、わしゃわしゃと拭く。 「……気を、つけた…方がいい」 ぽつりと五十嵐はそう言った。 何故、みんなそう言うんだ?何に、気をつければいい? 「…何、に…?」 「……全て」 全て、って気をつけようがない気がするんだが。 「……八、三日以上続くから、」 紅の担当が三日以上続くって、おれが? 「…全て、ってどういう、意味、なんだ」 「……全て。親衛隊、教師、生徒会、風紀、紅…」 全て。 この学園全ての組織に気をつけろ、って無理じゃないだろうか。 「……ありがと」 五十嵐は立ち上がって、扉に向かう。 「…あ、五十嵐…、」 「……今日…来なくて、いい」 いいのか、行かなくて。 確かに行っても、何をすればいいのか分からない。 「……じゃあ…」 五十嵐はのそのそと出て行った。 紅の所に行かなくていいのか。 まだ水やりが終わってないから、行かないと。 ぼんやりと考えた。 全ての組織に気をつけろ。三日以上続くから、危ないと五十嵐はそう言った。 何が危ない…? 「……分からない」 分からない事だらけだ。 . [まえ][つぎ] [戻る] |