SMILE!
2
「何笑ってんだよ」
「いやいや、別に何でもないよ。ねぇー、菊」
「うん、何でもないよ」
三人で楽しそうに、話しているのを見て羨ましくなった。いや、楽しそうなのは滝矢兄弟の二人だけど。
「……鈴、」
今だに持っているカゴを倉庫に戻しに行きたくて鈴に声をかける。
「あ、すみません八さん。…何ですか?」
「……倉庫に、行ってくる」
「八さん、俺も行きます。…咲と菊はそこで待ってろ」
鈴にそう言われた滝矢兄弟ははーいと返事をした。
滝矢兄弟を温室の前に置いて、鈴と二人で倉庫に向かう。
「八さん、無視して本当すみませんでした」
ガバッと頭を下げる鈴に焦った。
「…気にしてないから…頭、上げろ」
ゆっくりと頭を上げる鈴。
頭を下げられるのは、苦手だ。
どうすればいいのか分からなくなる。
「本当ですか?」
「…ああ…でも、何で」
無視したんだと言えば鈴は、苦笑いした。
「八さんの事、咲と菊に知られたくなかったんです」
…何でだ?頭の中を疑問が巡る。
「八さんに迷惑かけるのは嫌だったんです」
「……迷惑、じゃない」
「そう、ですね…」
歯切れの悪い鈴。
顔を見ると、何とも言えない微妙な表情をしていた。
「そうだ、八さん、紅…大丈夫でしたか?」
いつもの顔に戻った鈴にホッとした。
「…ああ、大丈夫だった」
たぶん。
お腹を蹴られた以外は大丈夫だった。
「それならいいんですけど…」
また微妙な顔をする鈴。
倉庫の扉を開けて、使った道具を戻す。道具も片付け終わったし、温室に戻ろうと鈴に声をかけた。
「「おかえり」」
温室に戻ると滝矢兄弟にそう言われて、ちょっと嬉しくなった。
おかえりなんて言われたの久しぶりかもしれない。
口元をちょっと緩めて、笑う。
「…咲、菊…見た、よな…?」
「「見た」」
「忘れろ」
「いやいや、無理だから!!」
咲の方が大きな声を出す。
何が、無理なんだ…?
「……どう、した…?」
「何でもないですよ。それより八さん、温室の水やりまだですよね?」
コクンと頷く。手伝いますと言った鈴と滝矢兄弟も温室に入る。
滝矢兄弟はイスに座り、鈴はおれの後ろをついてきた。滝矢兄弟の楽しそうな話し声を聞きながら、鈴と一緒に水やりを始めた。
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