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SMILE!
二度目



どうする事も出来なくて、紅の棟の前でじっと立っていた。
すると中から五十嵐が出て来た。
おれと目が合うと近づいて、すぐ目の前で止まった。


「……」

「……、」


何か話した方がいいだろうか。いや、でも何を話せばいいんだ。


「…一緒」

「?」


五十嵐はそう呟いた。
一緒って何が……?


「……っ、」


突然、五十嵐がおれの首筋に顔を埋めた。
びっくりして肩が震えた。
わたわたと慌てるおれとは正反対に五十嵐はくんくんと匂いを嗅いでいる。


「…一緒…匂い…」


五十嵐はただそれだけを呟くと、おれから離れてどこかへ行った。
何だったんだ、
匂いが一緒?…何と?誰と?
そういえば、五十嵐の匂い……どこかで嗅いだような…どこだ?


「……あ」


花を植え替えなければいけない事を思い出した。何もしないよりはマシだと思い、いつも通り自分の仕事をする事にした。
植え替えするのに必要な道具を取りに、温室の隣にある倉庫に向かう。


「…スコップ…と、じょうろ…あとは……花、か」


必要なものを確認しながら、手に取る。いつも使っているじょうろは家にあるから、今日はこっちのじょうろを使おう。
倉庫に鍵をかけ、隣の温室に入る。温室の端にある植え替え用の花の中からデイジーを何個か取る。
デイジーとスコップ、じょうろを大きめのかごに入れ、花壇に向かった。


「……よいしょ…」


花壇のすぐ近くにかごを置く。花壇の前にしゃがみ込んで、作業を始める。
枯れている花だけを取る。


「…今まで、ありがとな」


花にお礼を言っても、聞こえていないだろうし、返事だって返ってこない。
それでも、お礼を言うのは、言わないとおれの気がすまないから。
かごからデイジーを取り、スコップを使って植えていく。
スコップじゃ出来ない所は手を使う。軍手は持っていないから、手は泥まみれになる。

あと少しで植え替えが終わるという時に叫び声が聞こえた。


「追いかけてくんなぁー!!」


その叫び声と共に、しゃがみ込んでいるおれの背中に衝撃。


「うあっ!!……痛ぁー」


その衝撃のせいで花壇のレンガの角にスネを強打した。


「……っ…」


痛い。痛すぎる。声も出せない。
泥まみれの手でスネを摩るが、そんなものは無意味だ。


「ごめん、前に人いると思わなくて……って、あれこの前の、」


痛むスネを押さえ、後ろを振り向くと、この前迷子になっていた子がいた。


「………」

「この前はありがとうございました!」


その子はニッコリ笑った。



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あきゅろす。
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