SMILE!
3
「あ、思い出した。エナツハチだよー」
「犬みてぇな名前だな」
こっちを見ていた不良みたいな生徒が喋る。オールバックで黒髪。所々に金色のメッシュがはいっていた。
「確かにー、忠犬ハチ公だねー。ねぇ、晃雅」
青柳は持っていた傘を開き、クルクルと回して遊び始めた。
「あんな犬、ただの馬鹿だろ」
晃雅と呼ばれたそいつは、本当に忠犬ハチ公を馬鹿にしたような言い方だった。
ドカとソファーに座り、偉そうに腕を組むそいつ。
「どうしてー?おれは結構好きだけどなぁー、ハチ公」
「ちぃも好きだよ、ハチ公。だってずっと待ってるんだよ?可愛いよね」
青柳と…パソコンを弄る小さい子は、ハチ公が好きらしい。
自分の事をちぃと呼んでいるから、名前にちがつくんだろう。
「だから、馬鹿犬なんだよ。待つ事しか出来ねえんだぞ。賢いヤツなら、他の人間にでも拾ってもらう事ぐらい簡単な事だ」
おれに言っている訳じゃないのに、その言葉は胸にぐさりと刺さった。
「晃雅、分かってなぁい!ハチ公は、ご主人様が大好きだったんだよー!だから、死ぬまでずっと待ってたんだよー!!」
ハチ公が、死ぬまで待っていたなら……、おれはひとりぼっちになるまで待っていた。
だって、待てば……帰って来るって思ってたから。
忠犬ハチ公を熱く語る青柳に銀髪の生徒は呆れていた。
「こうちゃん、それの情報ゲットしたから読むよ」
情報…、たぶんおれのだ。
「江夏八24歳。この学園の用務員。仕事は主に環境美化。生徒にはもやしっていうあだ名で呼ばれてて…嫌われてるみたいだね。生徒にも、教師にもね」
…どうやったらそんな事まで調べられるんだ。この子にプライバシーという言葉は存在してないだろう。
「生徒に嫌われる理由は何となく分かっけど、教師に嫌われる理由はなんだ?」
不良っぽい生徒が小さい子に近づき、パソコンを覗き込んだ。
「んーと、そいつが理事長直々に雇われてるから、かな。そいつはかなり理事長に好かれてるって事だよ。……こうちゃん、そいつ使えるんじゃない?」
妖しく笑ったその子は、ちょっと怖かった。
「おい、そこの馬鹿犬」
馬鹿、犬…?おれの事か?
「……お、れ…?」
「お前以外に誰がいんだよ」
今だに床に座り込んでいるおれ。必然的にソファーに座っているそいつを見上げなければならない。
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