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ごめんもう笑えない(平助/悲)



「……死ん、だ?」


今日も賑わう京の町。
買い物の途中、そこで信じられない噂を耳にした。
『油小路にて、藤堂平助が死亡した』
詳しい事は分からないが、助かる程度の傷ではなかったそうだ。


「…そんなの、うそだ」


重くのしかかる不安を払いのけて、買い物を済ませる。
今度、文でも書いてみよう。きっといつも通り笑っている彼が現れるはずだ。
そんな私の期待に反して、一月たった今でも返事が届く事はなかった。


「…なに、してるの…ばか…!」


居ても立ってもいられなくなった私は、新撰組の頓所を訪れた。
しかし、隊士は『死んだ』の一点ばり。まともに取り次いでなどくれない。
肩を落として元来た道を引き替えした。


「あの、」

「…はい?」


目の前に現れた小柄な女の子、だろうか。
雪村と名乗ったその子は私に一枚紙切れを手渡した。

あの場所で


そう紙には記してあった。やっぱり彼は生きていたのだ。
夜、少し不気味だが彼に会えるのにそんな事は気にならない。約束された場所に急いで足を向ける。




「――平助!」



向かった先は少し町外れの山が開けた所。道のりこそ厳しいけれど、景色が綺麗な場所だ。
ようやく辿り着くと、そこには既に見慣れた後ろ姿があった。


「名前」


振り向いた平助に思いっきり抱きつく。少しよろけるが、いつも通り抱きしめてくれた。
彼の胸に顔を埋めて大好きな香りを吸い込む。


「会いたかった、」

「…うん」


頬を撫でる手に顔を上げれば、すぐに口付けが下りてくる。温かいそれは彼が生きているという証だ。
でも、胸がざわつくのは…何故だろう。


「ねぇ、何があったの。死んだなんて嘘だよね」

「…死んでなんかねぇよ。ねぇ、けど」


同じ事だ、と彼は呟いた。


「俺、もうここには来ないよ」

「…え、」

「もう、…名前にも会わない」


腕を解いて身体を離そうとする平助に慌ててしがみつく。
きっと今放したら二度と会えなくなってしまう気がする。


「…いきなり、変だよ。そんなの」

「、ごめん」

「ごめんじゃ、何も、分からない…!」


みっともなくすがりつく私を、平助は無理矢理引きはがした。


「…やだよ、平助」

「俺だってイヤだ。でも、今の俺は…!」

「――っ、」

「俺、は…、」


ぽた、と落ちた水滴が私の頬を濡らす。
平助が泣いているのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
そして、本当に彼に会えなくなってしまう事にも。


「…もう、分かった」

「…名前」


無理矢理作った笑顔はきっと、引き吊っていただろう。
思い出に残る私は、笑顔でいられるだろうか。


「…大好きだったよ」

「…俺も、名前が大好きだった」


同じように引き吊った顔で平助も笑ってくれた。
これで、私の思い出に残る彼は笑顔だ。


「さよなら」


後ろ姿が見えなくなった後、涙がぽたぽたと地面を濡らした。
染み込んで消えていくそれのように、いつかこの想いも消えていくのだろうか。
彼に好きと告げて、笑い合ったこの場所で。






ごめんもう笑えない




(ならば私もここで消えてしまいたい)




















お題:確かに恋だった


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