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53:【また同じ、】


(――じゃあな、元気にやれよ)
(・・・・・・)
(・・・俺はまた戻ってくる。一生の別れなんかじゃない)
(・・・、・・・)
(ああ、絶対お前の元に戻るから)

(待っててくれ、―――)
(・・・・・・)



「っ!」


びっくりして上半身を跳ね上げる様に起こした。

心臓はドクドクドクドクと早く打つ。久しぶりなせいだろうか。

また同じ、夢を見た。


「ハァ・・・」


額に浮いていた汗を拭う。そしてまたベッドへと体を沈めた。

辺りはまだ暗いから夜なんだろうと検討を付け目を閉じる。

最後に見た時より何だか鮮明だった様にも思う。何と言っているのかちゃんと聞こえたから。

でもやっぱり今回も分からなかった。

相対している男女。どちらも姿はおぼろげで男の声は分かるのに女が何を言っているのか分からない。

男の話した事から推測してみるが、緩々と睡魔が襲ってくる。眠ってからやはりと言うかまだ時間が経っていなかった様だ。

心臓が何時も通りの動きになる頃には、キフリは眠りに落ちていた。


―――それから数時間後。

夜は明け何時もの様に朝がやってくる。周りがざわめきだす頃にキフリは起きた。

だが夜中に一度起きたせいかまだ頭は覚醒しきれず身はベッドから動かない。

薄目でぼんやりと天井を見上げていたキフリだったが、朝は何時もしているひずにとの特訓がある。それを思うとようやっと頭は覚醒した。

着替えて甲板に出れば軽く体を解しているひずにに仁王立ちで立つマルコ、のんびりとしたエースの姿が見えた。


「キフリ、遅かったじゃねェかよぃ。何時もは一番にいるのに」
「ちょっと夜中目が覚めてしまって。軽く寝坊ですよ」
『寝坊とか、たるんでるなキフリ君よ』
「何時もは最後のお前に言われたくない」


ニヤニヤしながら言うひずににキフリは溜息と共に返した。


「ま、いいから早く走ってこい。キフリ、最近お前ひずにに越されてるよぃ。手ェ抜いてんじゃねェのか?」
「そんな事ないっスよ」
「ひずにが頑張ってるんだよな。な!ひずに」
『そうそう!僕がすっごい頑張ってるのだよ。だからキフリは悪くない。僕がキフリを超えただけであって』
「はっ?ふざけんなよ。お前が俺を超えるなんて絶対ないから」
『それはどうかな?』
「勝負すっか?あ?ゴラ」
「ああもういいから走ってこい」
「ひずに負けるな!お父さん応援するからな!!」


キフリがひずにの挑発に簡単に乗ってしまったのも無理はない。ここ最近ひずにがキフリより先に走り終えるのだ。

手を抜いていないと言ったキフリだったが少しぼんやりと思考に耽ってしまうのが最近多かった。

それを払拭する為にも"ひずにに負けない"という事で集中しようとしたのだ。

その思いは功を成した様で、終わった後にはフン、と鼻で笑うキフリと地に手を着くひずにの姿があるのだった。


「元より男の体力に女が勝てる訳ねェんだよ。はっはっはっザマァ」
『むがァァア腹が立つその言い方ァァア!!!組み手の時覚悟しやがれ!!』
「組み手の時なんて尚更だ。一度も勝った事ねェじゃねェか」
『うっせ!!』
「落ち着けってひずに。また次頑張れば!」
『う、うー・・・、負けん!!』
「そうそう!その意気だひずに!」
「(最近エース隊長に暴言吐かなくなったよなコイツ・・・)」


前にはこう言う時ひずにならエースにも『うっせ!!』とか『黙れバカ!!』とか言うところなのだが、そういうのが減ったのだ。減ったと言ってもちょっとだけだ。

とこ通りなく何時ものように特訓を進めた。やはりと言うかひずには組み手の時は真剣でかつ焦っている様にも見えた。だが隙を見せることは前よりなくなってきていた。

でもそこはやはり歴戦の差。またもやキフリの勝利で終わるとひずにはやはり『キーーッ!!』と怒りを露にするのだった。


「あーあーうるさいうるさい。・・・でも、前よか隙もなくなってきたしキレもよくなってきた。成長してるよお前」


ポン、と自分より頭一つ分小さいひずにを見下ろしつつ頭に手を乗せてみれば、みるみると見開かれる目。


『うぉぇええキフリが気持ち悪いよおぅぇぇええ!!』
「テメェ・・・人がせっかく褒めてやったのにその態度はなんだ」


頭を垂れて口元に手を添えて吐くようなマネをするひずにに、キフリはこめかみあたりをピクピクしながら引き攣った笑顔で言うのだった。

だが手を払おうとしない辺りひずには満更でもないのかもしれなかった。


「ひずに、昼飯食べに行こう」
『ん、お、もうそんな時間?』


そこにエースはひずにの手を引っ張って食堂へと誘う。そんなエースに『手離せコラ』とか言っているひずにを見送った後、キフリは自分の獲物を点検しマルコと共に食堂へと向かった。

昼飯を食べている時、どうやら周りの話を聞くと明日明後日あたりに島に着くらしい。

前の島では留守番であった為島に着くのが楽しみに思うキフリ。


―――その島で自分の失くした記憶に関する事に出会うのに、まだキフリは知らない。


   next

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お察しの方もそうでない方も宣言します。ええ、キフリ君の記憶編に突入致します!!

前々から考えは頭にありましたが、文にする気力がなかっ、構成が思いつかなかった為大変長らく更新しておりませんでした^^;(←

ここから先きっとギャグは少なくなると思います・・・寂しいなァ。




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