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50:【素直であれば】

「――キッドの頭!」


ひずにはきゃいきゃいきゃいきゃい、『この暑い中にこのむさ苦しいコート!!あの頭!!絶対そうだよね!!!』と言いながら凄く驚いた様な困った様な顔をした男、ユースタス・キャプテン・キッドを抱き締めていた。

腕だけではなく足までも巻きつけて。

エースがあたふたしながら「何してるの!離れなさい!」とお父さんっぷりを発揮するもひずには聞いておらず、というより今までにエースの言う事を素直に聞いた事があったのか。

あ、エース凹んだ。

そんな状態にひずにの大声でも聞きつけたのか、キッドの仲間達がぞろぞろと集まってきた。


「ドレッド!」
「キッドの頭!敵ですか!!」
『敵じゃないもーん!!キッドさんに会えた喜びに震える通行人Aだから!!!』
「そんな通行人Aいません!!迷惑だから早く離れなさいってば!!」
『ええええー』
「ああ悪いな、うちの娘が・・・」
「・・・え?(なんて若い親子だよ!?)」


そこではたと気付く。今目の前で申し訳なさそうに眉を下げるこの男は、

「(火拳の、エース・・・!!?)」

あの白ひげ海賊団の隊長である火拳のエースであると気が付いたキッドだったのだが。


「はーなーれーなーさーい!!」
『ヤダァァァ!せっかくキッドさんに出会えたんだよ!?あの閣下にだよ!?』
「だからめっ!!ひずにめっ!!」
『子供扱いすんなバカァァァ!!』
「・・・! バカって言われたっ・・・!!」


こんなの全然想像などしていなくて。寧ろ幻滅したと言っても過言ではない

キッドの仲間も火拳のエースであると気が付いた者はいたのだが、どうにも信じられないと言うか、半信半疑な目でエースを見ていたのだった。


「つか、何なんだお前」
『初めましてかっ、いやキッドさん!!僕ひずにって言います以後よろしく!!』


思わず『閣下』と言いそうになったひずに。キッドはそれに気付いちゃいなく。


「ああ、よろしく。って何言ってんだ!?つかいい加減離れろ!」
『そんな!キッドさんまでそんな事言うの!?うわーんエースキッドさんが酷いよーう(棒読み)』
「うちの娘をいじめるのは止めてくれないか」
「さっきとは打って変わってだなおい!!」


エースもさっきまで引き離そうとしていたのに、急な変わりように段々とキッドは頭痛がしてきたような。


「いいから本当に離れやがれ。暑い」
『のわっ』


キッドはひずにの脇の下に手を差し込むと上に持ち上げて引っ剥がす。


『・・・!! マジで!?今キッドさん高い高いしてるの!?なんて貴重な光景!!誰か写真撮って僕にくれ』
「ちょっ、ひずに!高い高いなら俺が何時でもしてあげるから!」
『違うから。してくれるのが嬉しい訳ないじゃん子供じゃあるまいし。キッドさんが高い高いをする事が貴重だって言ったんだよ』
「・・・なんか今日俺の扱い酷くない・・・?」


ひずにの言葉に遂にエースは凹みに凹んでその場で体育座りをして地面にのの字を書き始めた。

もはやコレを目にしてしまえばエースという人間の尊厳やらなんやらは微塵もなく、キッド達が思い描いた物はあっけからんと崩れ去るのだった。

ひずにと言えばもうこんな事慣れっこであるから何時もの様にエースを放置である。


「娘とは言え何者だよ。あの火拳のエースをこんなにまでしちまうなんて」
「え?頭このガキ火拳の子なんですか!?」
『いや待てキッドさん違うから。僕はエースの子じゃないから』


すとんと下ろされたひずには弁解するべくそう言った。


『エースは僕を拾ってくれたの。んで保護者気分になってるだけだから』
「拾ってくれた・・・?お前一体、」
『キッドさん!!そこのお店でお茶飲みながらお話しませんか!』
「はぁ?なんでそんな事」
『それは・・・僕がキッドさんのファン!大ファンだから!!』
「・・・ファン・・・?」


キッドはその言葉に思わず固まった。そしてまじまじとひずにを珍しい物を見る目で見つめた。


『そんな見つめないで下さいよキッドさん。勘違いされちゃいます』
「いや何の話だよ」


頬を染めながらはにかむひずにに思わず突っ込むキッド。

どうやらひずには物凄く興奮しているらしく、言動が気持ち悪い。

それも仕方なく、ひずにの中ではキッドはワンピースで好きなキャラ上位3位にランクインしちゃっているのである。

かなり大好きなキャラであった。

だからひずにはキッドと話す口実が欲しくて『ファンだ』と口走った。だが内心と言えば本音だったりする。


「っ、ひずに!?こここんなひずに見た事ない・・・!!」


どうやら復活したらしいエースは、ひずにのそんな様子にただただ信じられないと目を見開くばかりだ。

無理もない。どうしてもエースに対してはツンツンツンツンツン・・・ばかりでありデレなんて滅多にない。寧ろあっただろうか。

あ、エース泣いた。


「・・・とにかくファン、ってのは、」
『ファンです。キッドさんのファンです!』
「ファン・・・」


エースの事なんぞ余り気にもせず、ニコニコしながら言ったひずに。

キッドはそんなひずにを見て、段々段々と、


顔を破顔一笑した。


「そうかー。お前俺のファン・・・」
『そうですそうです!キッドさんとお話してみたかったんです!!』
「「「(・・・!!? キッドの頭ァァァア???)」」」


キッドの変わり様にキッド海賊団は驚きの表情を隠せずに固まった。


「(ファンなんて初めて出来た・・・やべっ、なんかファンって響きがいい!)」
『外暑いですから、喫茶店にでも入って話しましょう!』
「ああ(ファンか!ファン!!)」


言い寄ってくる様な女はいたのだが、ファンだと言う者は今まで誰一人おらず、またそれが新鮮であった。

仲間たちはファンとは違うし、海賊をやっていてファンとか言うものが出来るとは思ってもみなかったのだった。

ひずにはキッドと話せると言う事に凄く満足げな顔でキッドを近くの店へと誘導した。

キッドもファンというものが出来た喜びに笑顔で付いていくのだった。


「「「いやいやいや頭ァァァアア!!!??」」」
「ひずにィィィィィィ!!!??」


その後を慌ててエースとキッド海賊団は追うのだった。

店に入ったひずにとキッドは適当に座り適当に飲み物を注文した。


『覚悟して下さいね!思いっきり質問攻めしますから!!』
「ああ、いいぜ」


ひずには宣言通りキッドを質問攻めにした。


『その髪型のセット方法は?ゴーグル外したら髪の毛垂れるの?なんでメイクしてるの?なんで上半身裸でコート?キッド海賊団ってそのまんまキッド海賊団って言うの?てかカルピスカラーの仮面の人は?その仮面の下はどうなってるの?』


もはやキッドに関してでは無くなってきているが、そんなのは気にならないらしくにこやかに、にこやかにキッドは質問に答えていた。

船長のあの緩みきった言わば情けない顔にキッド海賊団は恐怖すら覚えていた。何時もの威厳に満ちた顔の影もなく、微笑んで対応するなどとは・・・。

ああいった情けないような顔をするのはもはや色々とストッパー役という名のお母さん的存在である側近のキラーだけだ。

それを突如現れたファンだとか言う小娘に見せたものだから、明日にでもこの夏島に雪でも降るんじゃないんだろうか。

そんな事を心配するキッド海賊団の傍ら、エースも複雑な面持ちでひずにとキッドを見ていた。


(どうしてあんな危なさそうな一海賊団の船長にあんな懐いているんだ!俺だってあそこまで懐かれた事が、無かった、様な・・・)


段々自分で思って凹みながら悶々もんもん、エースは「うー」だの「あー」だの呻いた。

最初ひずにがこの世界に来た時、エースに出会ってまだ日が浅い頃。

その頃はひずにはまだエースにデレデレしていた。

何せ好きなキャラクターが居る世界に飛んできて自分を拾ってくれたのは好きなキャラクターに入るエースであり、そりゃテンションが上がる。

だが月日が経つにつれ、"エース"という人を知ったひずに。

エースの親バカや過保護なところやら、一緒に親父やマルコやキフリと暮らしてみてひずには今ではもう自分の好きなキャラクターとして見る事は出来なくなっていた。

否、そう見るのは有り得ない、と。

架空の人物だった人達が今目の前に居て自分に喋って動いて、まだ浅いかも知れないが月日を共に過ごしてその人達を知ったからには、キャラクターなんかで見られる訳がない。

友達、家族と同じくらいに大事な存在。架空なんかじゃない大事な大切な人達なのだ。

だからエースやマルコ、キフリに親父や、船に乗っている皆には何時もひずには自然体だ。自然体だからこそひずには全てを晒しているとも言える。家族に対するように、いや、家族なのだから。

ひずにが今キッドにデレデレとしているのはまだキッドを好きなキャラクターとしか見てないのだ。

家族として見られている分、実際はキッドよりエースの方が一番なのだが、ひずにが日頃つんけんするせいか今はどうしても自分よりあの男の方が懐かれている様に思えて仕方がないエースだった。

それに気付くのは何時の日やら。ただ今はひずにがキッドに懐いていると言う風に見える光景を見て唸るのだった。

長い間2人は楽しそうに話していた。段々と辺りはオレンジから紫に変わろうとしていた。

流石にもう帰った方が良いだろう、と思ったエースやキッド海賊団。話が一区切りしたらしい2人に声を掛けた。


「ひずに、もういいだろ?そろそろ日が暮れて来たし帰ろう」
「頭、俺等もそろそろ行きましょう。明日には出航なんですし」


だがしかし、2人は駄々をこね始めた。


『えー、まだキラーさんに会ってないのにー』
「俺もまだ色々喋りてェ」


ひずにはまだ居るー、と言い、キッドは初めてのファンにまだ色んな事を教えたがっていた。とにかくファンと言うのが嬉しかったらしい。まだ手放したくない様だ。

そこでキッド海賊団の内1人が店を出て行った。


「そんな我が儘はダメだ。もう帰るぞ」


むむむっ、となるエース。段々とエースはイライラしてきていた。さっきからひずにはキッドとばかり話していて、自分は交じる事も出来ずにただ見ていただけだったのだから。

そこは長らくエースを放置していたひずにが悪いと言うものである。


「今すぐ帰る」
『ええええ!!もうちょっとー!!キッドさん助けてー!!』
「ひずにが居たいってんなら良いんじゃねェのか火拳」


エースは脇にひずにを抱えて無理にでも帰ろうとしたのだが、ひずにがバタバタと伸ばした腕をキッドが掴んだ。

それにぴく、と片眉上げるエース。


「悪ィがもう帰らせてもらうぜ。うちのが世話んなったな」
『ちょっとー、僕の意見は?』


少し荒げた声でぐいぐいとひずにを引っ張るが、またキッドもぐいぐい引っ張っていた。

無言の抗戦が続く。


「もーちょい」
『もーちょい』
「だからダメだって言ってん「こらキッド!」」


と、そこに新しく声が入った。見やればそこに居たのは、


「!? キラー!?」
『えっ、! キラーさんだ!!!』
「キッド、その手を離さないか」


キラーだ。キッドの側近のキラーが、クルーに探され来たのだ。手には何やらスーパーの袋を下げている。


『(え?買い物帰りの主婦?)』
「聞いてみればお前は・・・。いい加減にしないか、2人は帰るのだろう?」
「ひずには帰るなんて言ってないぜ」


むっとした顔でキラーに言うキッド。だがそれをキラーは無視しエースに向かう。


「すまないな、うちのが引き止めて」
「いや、いい。うちのも悪かったからな」
「いや、そんな事は。ほらキッド、謝るんだ」
「あぁ!?なんでだよ!!」
「文句でもあるのか・・・?」


キラーの凄んだ声にキッドはうっ、と詰まる。


「こんな時間まで他所の子を引き止めて何を言っている。それにもう晩飯の時間だ。まだここに居ると言うならばキッドの晩飯は抜きだな。・・・せっかく今日はミートスパゲティだと言うのに」
「ちょっ!そいつはダメだ!」


ガタンと席を立ち慌てて手を離すキッド。


「俺の好物だし!今すぐ帰る!悪かったなひずに」
「はいはい・・・。本当に悪かったな。こんなうちの船長なんだが、また仲良くしてもらえたら嬉しい」
『(おおおお母さん!!?)もっ、もちろん・・・!』
「・・・ああ」


ひずには少しどもりながら、エースは少し不機嫌ながらもそう答えた。


『明日出航なら、見送りには行くよ!』
「ああ、悪ィな」
『いやいや、僕もなんだか喋り捲って悪かったし・・・僕もキッドさんを引き止めていたからね』


ひずには申し訳なさそうにキラーとキッドを見、そしてチラッとエースを見上げる。


『(エースもちょっと機嫌悪そうだし、後で謝っておこう)』
「じゃ、また明日な」
『うん、また明日!』


ひずには去っていくキッド海賊団を手をぶんぶん振って見送った。


『・・・エース。ごめんね』
「でも帰ったら説教だ」
『でも・・・でも、なんて言うか・・・』


ひずには少し俯くと、


ゆさゆさゆさゆさ


『降ろして欲しいなァ・・・』


と切にそう言った。依然エースに抱えられたままだった。

エースが歩く度に揺れる視界。下から見上げるエースの顔が心なしか、怖い。


「船に着くまでダメだ」
『どうしたのさーエースー。悪かったってばーごめんなさーい!』
「真剣に謝ってない!お父さん今日は許さないぞ!!」
『うえー!!ごめんてばァァ!!!』


珍しく許してくれないエースに不思議に思いつつもじたばた暴れながら謝るひずにだった。

エースに許して欲しいのなら、つんけんせずにもっと素直にいる事だろうか。



   next


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キッドさんがミートスパゲティが好きだとかは子供っぽさを出したくそんな暴挙にでました^p^
やっぱりキラーはおかんだと私は思うのです・・・!

次でキッドさん達とはお別れしますw




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