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48:【天使の笑みから凶兆】

『ごっほげほっ、う゛げほっ!!』
「ひずに大丈夫?」
『はー・・・くるしっげほっうぼっぶほっ!!』
「にしても変な咳ね」


アラバスタから帰るのに無理が祟ったせいか、ひずには風邪をひいた。見ての通りに風邪だ。

エースが起きた時、顔が赤く息が荒いひずにの異変に気付き、泣き叫びながら船医の元にひずにを抱え飛び込んだのは30分前だ。


「ひずにがっ!!ひずにがァァァ!!!うわぁぁああぁん!!!ひずにィィィ!!」
「泣くんじゃねェよ男が!!熱は高ェがただの風邪だ!!」
「風邪!!?ひずに大丈夫かァァァァァ!!!」
「誰かこのアホ追い出せ!!!」


とにかくこの時エースは騒々しかった。もう船医にアホと言われるくらいに。


『暑い・・・熱い・・・』
「熱39.9℃なんて。高いしね」
『シャーリー・・・僕はもうダメなのかな・・・』
「何言ってるのよバカね!あんたの風邪は疲労からくるものなんだから!死ぬわけないじゃない!」
「ひずにったら本当にお騒がせね」
『あー・・・頭がー・・・痛い。ガンガンガンガンガンガっぼっ!!ごぼっ!!』
「いい加減何か出てきそうな咳ね」
「臓器とか出るんじゃないかしら」
『恐い事言わないでアン・・・!(泣)』


ゔー、と唸る涙目のひずに。顔を赤く紅潮させ、潤んだ目は何時もの彼女らしくなくこうなんだか、


「「・・・可愛い!!」」
『はぶっ、がはっごほっ!!?』


『は?』と言おうとしたひずにだったが咳に邪魔されそれは叶わなかった。


「あ〜!こんな可愛いひずに何時までも見ていたいけど、私達もう行かなきゃ」
「また少し後で様子見にくるからね。大人しくベッドで寝ていなさい」
『いや僕うごっほ!動けないからね、っ、ふぼっ!』


シャーリーとアンが出て行った後を見送ると、ひずには天井を見た。ボーっとする頭では深く物事を考える事など出来ず。


『(・・・暇)』


こんな動かずジッとしているだけなんて何時ぶりか。というより自分はジッとしている時なんてあっただろうか。

部屋は静かで物音1つしない。

部屋の外からはたまに靴音や雑音は聞こえるものの、なんだか遠く聞こえひずには独りぼっちのような感覚になった。


『(つか誰も見舞い来ねェのか・・・)』


それはシャーリーとアンがひずにが安静にいられるようにと配慮した結果だった。薬も効きひずにはそろそろ眠るだろうからだ。


『(あー・・・天井の木目がぐにょぐにょしてる・・・面白ー)』


もちろんエースはひずにの看病をしたいと申し出たが、誰もエースに看病が務まるとは考えていない。却下された。


『(エースなら来そうなのに・・・酷い)』


シャーリーとアンの配慮を知らないひずにはエースを小さく恨む。


『(眠たい・・・)』


薬の効果が効きだした為か、眠くなったひずには瞼をゆっくり閉じ眠ろうとした。

その時だ。コンコン、とノック音。


「おい、ひずに。見舞いに来たぞ」
『・・・ん?』


誰だろう、とひずにはゆるりと瞼を戻す。


「大分顔赤ェじゃねェか。大丈夫か?」
『親父・・・(すげェ親父があんな小さなノックした)』


親父だ。少し心配げな顔でひずにを覗き込んだ。


「ナースに見舞いを止められたが、自分の大事な娘が苦しんでんのにいても立ってもいられなくてな」
『ハハッ、ありがとう親父。嬉しいよごほっ』
「安静にして早く治さなきゃなんねェぞ」
『うん・・・。親父、来たばっかで悪いけどごほっ、感染ると悪いから自分の部屋けほっ、戻ってていいよ』
「・・・そうだなァ、お前の安静の邪魔になっちまうしな・・・」
『ありがとう親父、ちょっとだけだったけど嬉しかったよ。けほごほっ、寂しかったから』
「風邪にかかっと人肌恋しくなるって言うからな。グララララ。また来るからな」
『げっほ、うん。ありがとう』


親父は名残惜しそうにひずにの部屋から出て行った。

―――さすが親父だ。復活したら命一杯抱きつこう。

ひずにはそう決めると、天井を見つめながら自然に目が閉じるのを待った。


『(・・・ん?)』


なんだかそっとあたりを確認してこの部屋に入ろうとする気配がする。

なんて事はひずには分かりません。天井の木目が気になってるだけです。ぐにょぐにょしているんです。何あの形、みたいに気になっただけです。


『(あぁ、分かった。あの形は)バナナ』
「お前せっかく見舞いにきてやったのにそれは俺に対する侮辱かぃ」
『ええええげほ!ごっほぐほっ!!!??』


いきなりの声にビビッて咳が止まらなくなったひずに。ごほごほ咳き込むひずにに「あー、悪ィ」と一応謝るマルコ。


「おわー、辛そうだなひずに。ザマァ」
『テメェキフリお前おっぼ!ごほっうげっほっほ!!』


『テメェキフリ覚えてろよ!!』と言おうとしたひずにだが、またそれも叶わない。


「変な咳だな・・・ぶっ」
「というよりエース連れてこなくてよかったよぃ」
「そうですね。こんな状態見たらあの人発狂しますよ」
『ごほっ、エース今何してんの?』
「別に何かしてる訳じゃねェよな」
「ナース室の方に言ってお前の状態を聞いたりはしてたかな」


ちなみにここはひずにの部屋だ。自分の部屋が良いとひずにが言った為だ。


『ふーん゙っ!ごっ、ごほっ!!(あーもうこの咳辛い!!)』


ゼェゼェ言いながら咳をするせいで息が少し苦しく、涙目だ。顔も赤く潤んだ目で上目遣い。

いつもの活発なひずにと違い、こんなに弱弱しいところを見たところは・・・マルコはあるがまァどっちにしろ滅多にないことなのだ。

憎まれ口は叩くもの、なんだか調子が狂う。なんだかこうひずにが、


「(こんな顔も出来るんだな・・・)」
「(こんなエロい顔できんだなー)」
『何ジロジロ見てんだゴラ』


可愛いとは言わないものの、とまァ珍しいものを見たもんだ、と。


『てか見舞い品はないの?』
「お前何か食える状態じゃねェだろ」
「あー、だけどお粥とかは必要か?」
「仕方ねェな・・・取りに行きましょうか、マルコ隊長」
「そうだな」


マルコとキフリは部屋を出て行った。おー珍しく動いてくれたな、なんてぼんやり考えるひずに。

またしん、となってしまった部屋で天井の木目を見るひずに。だがまた段々と眠くなってきてしまっていた。


『(お粥持ってきてくれるらしいけど、ゴメン寝るー)』


心の中でそっと謝るひずに。

寝ようとするタイミングで人が来るのだ。もう意識が朦朧としている。

視界が定まらず木目がぐにょぐにょぐにょぐにょ――


「―ぃ、おーいひずに。・・・ひずに!?」
『・・・ぅ』
「おいひずに大丈夫か!!?」
『(この声・・・)エー、ス・・・?』


エースの声にハッとなるひずに。どっか別の世界に飛びかけていた様な感覚だ。

エースはとうとう耐え切れなくなり見舞いに来た様だ。そして見たのはひずにの目が渦巻いていた。


「今ひずに目が渦巻いてたぞ・・・!?」
『アハハッ、何それ。ごほっ、アハハハっげほハハー』
「、ひずに!!大丈夫じゃねェよコレ!!!うわっ!俺が触ってもめちゃくちゃ熱ィ!!」
『・・・えーす、えーす、』
「おう、おう、」
『えーす、えーす、えーす、えー「てか最早うわ言!!?ひずにかなり危ない状態なんじゃねェかコレ!!!??」』


ひずにはただただエースの名前を呼び続けだした。眠れないのと頭や顔に急激に熱が上ってひずにはもう訳が分からずに喋っている。

これはもう危ないと感じたエースは、ドタバタとひずにの部屋を飛び出し船医かナースを呼ぶことにした。

だが勢い良く部屋を飛び出した途端、人とぶつかった。


「――あいだっ!!」
「おわァっ!!ああああ!お粥がァァアア!!」
「え?ぅわあっ!!!」


ぶつかったのはお粥を持ったキフリだ。見事にお粥は中を舞い、そしてエースに全部降りかかった。


「どわァアアア!!?あづっ!!」
「あああエース隊長!お粥焦がさないでくださいよ!!」
「どっちにしろぶちまけちまったんだ。新しいのもらって来なきゃダメだろぃ」


思わず体を火にして回避し、その火のせいでお粥は見事に焦げた。


「ってこんな事やってる場合じゃねェよ!!マルコ!!ひずにが危ないんだ!!!」
「あ?」
「ひずにの目が渦巻いててえーすえーすえーすって!!!」
「訳分からねェよぃ(ボグッ)」
「痛ァアアア!殴らんでいいから!!それより船医かナース!!」
「ちょっと何!?ひずにに何かあったの!?」
「そこ退いて下さい!」


混乱状態にナイスタイミングで現れたシャーリーとアン。まさに救いの白衣の天使である。


「!! コレかなり高熱じゃない!!!眠ってたらこうはならなかったハズなのに・・・!」
「シャーリー、ひずに見てて頂戴」
「えっ?アン!?;」


アンはゆっくりと、扉付近でこちらの様子を伺っている男共3人に振り返った。


「まさか、入るなって言ったのにひずにの部屋に居たのかしら・・・?」
「「「・・・・・・;」」」


白衣の天使の微笑みなのだが。

この時のアンの微笑みはどうしても3人に災厄が降り掛かる凶兆にしか見えなかった―――。


* * *


2日後、ひずには完全復活した。


『ふっかァァァアアアつ!!!よし!アンとシャーリーにお礼がてら、親父に抱き付きに行こう。3人もたまには親父に甘えなよ〜』
「「「イヤ、オレハイイ」」」
『え?何で片言?』



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