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61:【自分が悪いんですね、分かります】


「よし、行くか」
『なななな何故!?どうしてそうなったんですか!?』


エース、助けてくれ。ロリコンに拉致られそう。

心で念じてみようとして戸惑ってしまう。

やっぱりまだ怒ってるかな、さすがに僕を助けには来ない、かな。

ひずにはとりあえず抵抗をして逃げてみようと心掛けるが、何故動かないと言いたいくらいにびくともしない。

がっくりしてついにはうなだれる他なかった。


――時間は遡り3日前。

新しい島に着いた白ひげ海賊団。今回冬島。

また寒い島か、と前にも上陸した冬島を嫌なオプションと共に思い出したひずには乗り気ではなく、だがそれを除けば新しい島という興味溢れるところだ。

そしてあの後ちゃんと買っといたコートを纏い飛び出した訳である。

雪は都心に近付く程に積雪は少なくなっていく。歩きやすくなる道に機嫌を良くしながらざくざく歩き、街についた。

これと言って見るものもなさそうな場所だ。欲しい物もとりあえずないひずにはぶらぶらぶらぶら。

途中会う仲間達と軽く会話しつつ(『酒場?』「おうよ!あと女だ」『おー頑張れよー』)飽きたら自分も皆がいるらしい酒場に足を向ける事にした。

曲がり門を右に曲がる。そして突然に走った衝撃と一瞬だけ目の前に広がったオレンジ色にひずには体をよろけた。


『どあっ??』


思わず尻もちをつき転んでしまい、誰かにぶつかったと瞬時に判断する。


「あ、ごめん」


上から降ってきた声はなんとも低い声。確実に中年にぶつかったと思いつつぶつかった自分が謝るべきなので慌てて顔を上げる。


『いえ、こっちがぶつかっ・・・』


たので僕のほうこそすいませんでした、と言うはずだったひずにの口はぱっかり開いたまま動かない。

見上げたそれは転んだ事により更に大きく見える。

まず目に優しいかな、いやちょっと痛いといったオレンジ色の服、と言うかツナギ。それに白は映えている。何の白かなんて体毛の。

そう、体毛だ。白だ。全身ふさふさで丸い小さな耳がついていてわぁ白くまさんだ!と言いたくなる様な。

と言うか白くまだ。くまだ。くまがツナギを着て喋って。

最後に触れるけど胸元の特殊なマークは、いやもう上述の通り察しがつかない人はいない。真っ先に目に入ったそれをわざと最後に回した。

驚きの余りに現実逃避をしてしまった。まさかあの海賊団がこの島にいたのか。今目の前の存在がそれを証明している訳でして。


「大丈夫?」
『ぁ、あのあのあの、』
「?」


キッドさんの時と同じくらい感動だ。目の前の白くまに飛び付き抱きつきたい。


「おーいベポ。何してんの?」
「あ、シャチ。女の子にぶつかっちゃって」
「何?女の子?見せろ!」
「、あれ?」


僕は白くまが自分から意識が逸れた瞬間に脱兎のごとく逃げ出した。曲がり門のさらに向こうにまで走って両手で口をふさぐ。


「いねーじゃん」
「さっきまでいたんだけどなァ」
「お前がくまだから怖くて逃げたんじゃねーの?」
「くまですいません・・・」


僕が去った後のその場の会話が為されている頃、悶えながらマジかァァァ!!と内心叫ぶ僕。

だって僕の好きなキャラクター上位に入るあの海賊団と出会う時が来ようとは・・・!!あわぁぁあぁ・・・!!

あーベポ可愛かったなァ声ひっくいよ中年かと思っちゃったじゃん。でも可愛いよ勢い余って抱き付けば良かった。

つかシャチ・・・?多分同じ海賊団の仲間だよな。ベポって呼んでたし。見えなかったや。

とりあえず興奮冷めやらぬままに僕は酒場に移動する事にした。この事をエース達に報告しよう!


酒場。


『エースエース!この島にハートの海賊団もいるよ!』
「ハート?」
「あぁ最近騒がれてる」
「でもまだ小せェとこだろ?」
「船長はなんだったか、"死の外科医"か」


ひずには酒を貰いながら楽しそうに話す。


『今日その仲間の白くまにぶつかった』
「白くま!?」
「白くまが仲間!?」
『うん!しかも喋るんだよ!ちゃんと立って歩いてるんだからね!』
「ええええ!?白くまが二足で歩いて喋んのかよ!」
『凄いよねー!』


ひずにはケラッケラ笑いながら更に酒をあおる。


「へぇ、にしても手配書だってそんな見てなかったのによく分かったな」
『漫画で知ってるからねー』
「て事はもしかしてその死の外科医もメインか?」
『むっちゃカッコいいよ、もう僕の中では上位に入る好きなキャラクターだからね』
「何!?ひずに!そいつに出会ってもついて行っちゃダメだからな!!」
『えー!!ついては行かないよ!ただ話はしたい!』
「ダメだ!やっぱり会うのも禁止、探しちゃダメだからな!」
『何だよエースのケチ!バカ!』
「俺はひずにの為を思ってだな」
『うるさーいパパのバーカ』


珍しく酒に酔ったひずにはそれでもケラッケラ笑いながらエースの肩をばしばし叩く。むーと不機嫌な顔をしつつエースはひずにから酒を取り上げる。


『あっ、何すんのさ』
「それ以上飲んだらダメ。ひずに珍しく酔ってるぞ」
『酔ってませーん。この僕が酔う訳ないしー』
「そう言う奴が酔ってるって言うの!」


欲しいと手を伸ばしたがヒョイと避けられる。むっとした顔になったもののすぐにどうでもよくなったのかエースの頬をつんつんつつきだす。


『エースのほっぺいっぱい入るくせにあんまやーらかくない』
「はいはい、分かったから」
『あれやりたい、肩叩いて振り返った拍子にほっぺにつん、ってするやつ!』
「言ったら意味がないだろ?」


苦笑しながらひずにの好きな様にさせるエース。


よく見るとエースとひずにの周りだけ人がいない。確かに先程まで会話に加わっていたはずの仲間達は2人を遠巻きに見ていた。


「珍しくひずにが酔ったお陰でいいムードじゃね?」
「だな。ありゃ邪魔しちゃいけねェ」
「隊長、良かったッスね!」


と見守りに徹する事にしたらしい。いい奴らだな。


そんな翌日。


『もー!行かせろやァァァ!』
「ダメだー!お父さん断固反対だ!」
『一目見るだけ!話さないから!見るだけだから!』
「なら俺もついて」
「何言ってんだよぃ。お前は今日残り」
「えっ!」
『大丈夫だって見たらすぐに戻るから!それじゃ行ってきまーす!』
「いやお前も残りだっ、てーの・・・」


キフリがひずにを捕まえようと手を伸ばしたが遅く、もう街に向かって飛んで行ってしまった。


「ああああ!ひずに!」
「だからお前は残れぃ!俺等が見つけた時に強制的に戻してやるからよぃ」
「頼んだぞマルコ!」


ちょっと、いやかなり心配になりながら残ったエースは落ち着かなかった。


『よーし、ベポを探したら早いよな。分かり易いし』


高い屋根に降り立ったひずには上から見渡して目立つオレンジ色を探す。

屋根から屋根へと移動しながら探し、そしてやっと見つける。

白いツナギ集団の中にいるオレンジ色。もう白いツナギ集団の時点で充分目立つがその中に一点のオレンジなのだから余計だった。

屋根から飛び降りて、そっと遠回りについて行き様子を伺う。


『(あっ!あの人分かるぞ!キャスケットとペンギンさんじゃね!)』


2人のトレードマークの帽子を見て判断する。何だろうか、ハートの一味は皆何か被らないといけない決まりでもあるのだろうか。


『(どこ行くんだろ。その先にあの隈濃い船長はいるのかな)』


ワクワクドキドキしながら集団をそっとつけるひずにだった。

が。


「見つけた」
『ぐえっ!;』


ひずにの首根っこを掴んだのはキフリだ。全く、とため息を吐く。


「今日はエース隊長と一緒に留守番してろ」
『えー!!もうすぐなのに!あの白いツナギ集団の向かう先にいるのかもしれないし!』
「知るか。とにかく強制帰還だ」
『でぇぇぇ!!コンチクショウ!』


じたばたもがくも引きずられ船に帰らせられたひずにだった。

その始終を見ていた人物がいた事にひずにもキフリも気付いていなかった。


「よしよくやったキフリ」
『キフリバーロー!へっバーロー!』
「じゃあなー」


キフリは嫌みたっぷりにひずにに手を振ってみせると船から降りていく。エースに捕まったひずには恨めしく思いながら見送る事しかできないのだった。

船から降り再度街に戻ったキフリは早速島に居られる間だけの相手を探しに行くのだった。

それらしき店に入ろうとして足を止めた。見ると白いツナギを着た男が1人店の前に立っている。

目立つ配色のキャスケット帽子にサングラスだが、どうやら歳は変わらなさそうな青年だ。

ひずにの言っていたハートの海賊団の白いツナギ集団というワードを思い出す。同業とは言え敵だ。

注意深く見ていたがその青年はどこか哀愁漂わせていると言うか、なんとなくしょんぼりしていると言うか。


「・・・何してんの?」
「え?」


つい、と言うか、何だか気になったキフリは青年に話し掛けた。


「店、入りたいなら入りゃいいじゃん」
「いや、それがよォ」


青年は頭をかきつつぼそりと言う。


「俺は相手にしねーとよ」


笑っちまうよなーハハハー、と乾いた笑い声をあげつつもサングラスの奥の目は涙目である。気の毒だ、と思うが口には出さない。


「あー・・・。そりゃ、ドンマイだな」
「傷心だって。そんなに俺は対象外なのかよ!」
「まま、落ち着けって」


ガアアア、と吠え始めた青年にぽんぽんと肩を叩き宥めるキフリ。


「くそっ、ペンギンばっか何であんなに人気なんだ!」
「(ペンギン?)おー」
「俺だって女はべらかしたいっつの!」
「そうだよな男ならな」
「だよな!あんた話わかんじゃん!何もしかして俺と同じなのあんた?」
「いや一緒にすんな」


何っ、と青年がショックをうけたのを見てプッと吹き出す。同年代のやつと話すが久しぶりなせいか楽しい。


「でもある意味似た様なもんかもしんねェ。俺付き合っても相手からフられるしよ」
「マジかよ!俺もだ!ちなみに年上熟女が好きです」
「! 俺も俺も!やっぱ巨乳だよな」
「当たり前じゃん!セクシーなお姉さんに限る」
「だな!俺キフリ。あんた名前は?」
「俺はシャチっつうんだ。これからここじゃない店行かね?」
「オッケーオッケー。俺も探しに行く所だったから」


すっかり意気投合したキフリと青年、シャチはその後も自分の好みのタイプやフェチを話しながら店を回るのだった。


そんな事があった翌日。


『よし、行くか』


キリリと顔を引き締め塀に足を掛けるひずに。


「いや、ダメだ」


ギリリと気を引き締めひずにの腕を掴むエース。


『だーっ!!ちゃんと昨日はお留守番したじゃんかー!』
「いけません!パパは許しません!」
『何でそこまで引き止めるの!見たらすぐ戻るって言ってるでしょーが!』
「嫌だー!娘が変な男のとこに行くのに許す親がどこにいますか!」
『・・・分かったよ』


ひずにはため息と共にもがくのを止める。エースは安心し掴む手を緩めた。


「良かった安心し『隙ありィィィ!!』ええええ!!?」


ひずには一瞬で抜け出すとバッと翼を広げ飛び出した。

エースも慌てて跳躍しひずにの後を追う。


『よーし、今日こそ会うぞ』
「待てって!ひずに!」


ルンルン気分で昨日白いツナギ集団が向かっていた方向にまず飛んでいく。

エースがその下で色々大声を出していたが無視である。


「っ、ひずに!!俺はもう知らないからなー!!」
『ん?』


振り返れば怒った顔でそっぽを向くエース。直にくるりと方向転換すると船に向かっていく。


『あちゃー、エース怒った?』


少し止まりためらって、直ぐに考え直す。


『ちょっとだけ、本当に一目見たら帰るからね』


その為にも早く見つけなければ!とひずには飛ぶスピードを上げた。

さてさて、まずは白ツナギを見つけられたら楽なんだけどな。

地上に降り立つと歩きながらキョロキョロと探し始める。

うーん。でも何だかエースも怒っちゃったし、なんだかなァ・・・。・・・萎えたと言うか、エースに申し訳なくなってきた。どうしてあそこまで止めるのか分からないが。

まァ確かに一海賊の船長に会うなんて危ないわな。普通。しかも残忍で名前の知られているその人に会うのだから尚更か。エースは心配してくれていた、か。

そこまで考えてピタリと足を止め、エースを思う。

やっぱ帰ろう。何を向きになってそんなに会いたかったのだろうか。そりゃ好きなキャラクターだけど別に会わなきゃ死んじゃう訳じゃないんだから、いっか。いっか!

顔を綻ばせながら1人満足して方向転換。今帰るからねエース!


「お前名前は?」

























あ、ああああー。驚き過ぎてしばらく無心になっちゃった。ハハハびっくりびっくりー。


「答えろ」


何だよもー今まさにいっか!って思って帰る気満々だったのになー。


「ひずに、だったか?」
『知ってんじゃん』


何故だ。どうしてこのタイミングで見つかるんだ。


「昨日も見たからな。俺の事は知ってるよな?」


死の外科医、トラファルガー・ロー!


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