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60:【日々が還ってきた】

「『・・・は?』」
「お前と頭ぶつけたショックで戻ったらしい」


マルコの言葉にあんぐり口を開ける2人。


「いや、ちょ、ちょっと・・・」
『それじゃ・・・』
「あいつが思い出した話では故郷は春島」
「春島・・・」
『春島・・・』


島を見る2人。


「活気ある港町の隣にある静かな村」
「港町の隣・・・」
『港町の・・・』


港町から視線をずらし村を捉える2人。


「崖の近くにある家であいつは育った」
「崖・・・」
『が・・・』


そして夕日が照らす崖を視界に入れる。


『おいコラ条件揃ってんじゃねェかァァァ!!』
「待てよぃひずに!飛ぶなっ!!;」


バッと翼を広げたひずにをマルコが止める。


「行ってどうすんだよぃ!!」
『そんなの決まって!・・・』


みるみるうちにひずにのもがきは弱まり翼も消えてしまった。そしてしゅんとうつむく。


「でもよマルコ!俺は、俺とひずには反対だからよ、キフリが船降りるなんてよ!」


エースもマルコにくってかかる。マルコは腕を組んで淡々と話す。


「決めんのはあいつだろぃ。あいつ自身の事なんだ」
「マルコはどうなんだよ、降りて欲しいのか!?」
「俺はただ、覚悟決めてるだけだよぃ」
「っ。・・・そうかよ」
『・・・・・・』


暮れかかる夕日にひずには不安を覚えた。


結局、キフリは夕日が沈み夜になっても戻って来なかった。ログが溜まるにはまだ時間があるにはあるが、その間に戻る気配がないのなら。

その時は、覚悟を決めて。

マルコは前からその覚悟を決めていたと思うとぐっとなるひずに。付き合いが長い分思い入れが強いはずだからだ。

マルコがここまでキフリの気持ちを尊重するのは親父と共に最も身近にいた者でもあり、やはり7年間という時はそれなりに長い。

自分を強くして欲しいと弟子入り志願をしてきた頃は腰くらいにしか身長がないチビだった。

全然無邪気な年なのに戦う術を学ぼうとした。

服装をマネしてきた時期もあった。羨んでのその行動に兄の様な保護者な様な気持ちが沸き。

いっちょまえに他の奴に声を掛けては喧嘩に明け暮れてた時もある。とにかく強くなろうとしてた。今のひずにの様に。

身長が胸くらいになった頃、銃を得意とした戦闘スタイルにした。結構な腕前でメキメキと上達したもんだった。親父が褒めたもんだから飛び上がって喜んだくらいだ。

いつの間にか色事にも知識豊富になってた。男しかいない船じゃ自然と当たり前に性教育だ。初体験はいつかと聴かれた時のショックはそれなりにあった。かなりあった。

そうして成長を見守ってきた。立派とは言わないがマシになった。

あいつはもうひ弱なガキではなくなった。

また不安のせいで寝不足の状態になったひずには朝食の皿に顔を突っ込んだ。ついでにエースも突っ込む。マルコはツッコむ。


「またかよぃこのパターン。いい加減にしろぃ」
「あ、寝てたか?」
『うっ、誰かおしぼりプリーズ』
「ほら」


渡されたおしぼりで顔を拭いたひずには、そのままそのおしぼりを渡してくれた人物の顔にへと投げつけた。

スパァン!と良い音が鳴る。


『ってゴラァァァ!!きっさまァァァ!!』
「おおお落ち着けひずに!!どうした!?」
「っテェなコノヤロー!!いきなり人の顔にスパーキングたァどういう了見だよ!!」
「おまっ、いつ!?」


ひずにがおしぼりをスパーキングした人物は、フードを被り鼻あたりを押さえたなんとキフリだ。

いつもと変わらない風にいる彼にびっくり仰天だ。

その姿に食堂中が騒然とする。


「話題の中心キフリだぜ」
「早くこの雰囲気終わらせろよな」
「皆待ちくたびれてんぞ」
「いつ帰ってきたんだよぃ」
「驚かすなよ全く・・・」
「なんか前半酷くねェ?管理人に言え」
『それより、』
「あー?言うな言うな。まず言っとくが、

俺は船を降りる気は全くない!

とりあえず、悪かった!色々俺の事で騒がしちまって。

前世がどーだとか記憶がどーだとか、そんなもん関係ねェ。ないんだよ。

俺は俺。俺なんだ。俺がどうかなんだよ。

今の俺がどう思ってどうするかなんだよ。だから、
  ・・・・・・
俺はこうしたんだ」


堂々と言い放つ姿に、それを飲み込んだひずにやエース、マルコはどれほど安堵したものか。


「親父からもらった名前がある。前の俺は、あの時に死んでんだ。だから清算って言うのはちょっと違うけどしてきた。

俺はこれからもキフリとして、俺で在り続ける」

「あァ、それでいいんだお前は」
「「「親父!」」」


そこにこの船の船長、白ひげがやって来る。ゆっくりキフリの元に行くとその大きな手でキフリの頭をぐりぐりと撫でた。


「記憶がないからテメーじゃないって訳ねェんだ。お前を信じてくれてる奴らがいるテメーを信じたら良い。そうだな、キフリ」
「ああ、そうだな親父。・・・ありがとう」


キフリはフッと笑んだ。親父も大きく轟かせて笑う。

親父がキフリの頭から手を離した時、かぶっていたフードがぱさりと落ちる。


『、え』
「あ、」
「あー」


キフリは頭を押さえあーあ、と言う様な顔をする。でも直ぐにまァいいかと開き直る。


「ハハッ、短髪の俺もイケるでしょ?」
『切った!?』
「新鮮!」
「7点」
「隊長それ何点満点ですか」


キフリはこざっぱりした頭を掻き回しニカッと笑う。長かった襟足は首あたりまで、前髪横髪も目あたり耳あたりと全体的に短くなっていた。


『何で切ったのさ?』
「あー、気持ち切り替える為と言うか」
『ちょ気持ち切り替える為とか失恋した女子じゃん女々しいな』
「女々しい言うな。ここでも憎まれ口かよ。たく・・・」


ぼやき苦笑をしつつもキフリは言う。


「マルコ隊長の考えもお前とエース隊長の気持ちもありがたかったよ。だから、降りる訳ねーよ。

仲間(家族)がいるここが俺の還る場所だからな」

『・・・そっか!!』


満面の笑みでひずには応え、キフリも「おう!」と返す。


「良かったキフリ!これからもよろしくな!」
「よく戻ってきたよぃ」
「だから端から降りる気なかったんですって」
「やっぱりマルコの早とちり」
「全くマルコ隊長はバナナでありパイナップルなんですから〜」
「は?お前またそんな事」
「より鬼だよな」
「『全くだ!』」
「さっきのお前の態度はどこ行ったんだよぃ!」
『ほら鬼だ逃げろ!』
「待てよぃゴラァァァ!!」


4人の背中を豪快に笑って見送る親父につられてか、その場にいた全員が笑い出す。


また騒がしくなる。



――
―――彼はじっと夕日が暮れるまで3つの墓標を見つめていた。そして幼い時の記憶が蘇ってくる。

あの後、きっと自分の事を助けようとした2人の名前がこの2つの墓標に刻まれている。あのスーツの男は何者だったのか。

彼は小さい墓標に刻まれたその人を示す名前を見る。2つの墓標が寄り添う様に、守られているようにあるその墓標。

彼は立ち上がると墓標を磨き始めた。気が済むまで行うと、次は坂を下り青い屋根の白い家の中に入り埃まみれの家の中を隅々まで掃除した。

夜が更け朝日が昇ってくる頃、整理整頓された家を出てまた少し坂を下る。

太陽が斜め上に昇ってきた頃、彼はまた墓標の元に行くと持っていた花束を置いた。


「行って来ます。・・・さようなら」


そう呟いて背を向け歩き出した。

帰る場所に還るのだ。その足取りはしっかりしていた。

崖の海に望む亡き人が、その背中を見送った―――



何を知った?

何もないよ、だって最初から知っていた。



【日常編!!】の狭間の〜彼の追憶編〜 END



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