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■本編06

 分からない所がある、と困った声で大輝に頼って来た。
 勇輝は国語が苦手で、中でも長文の文章問題が不得意だった。もちろん、持ってきた宿題も国語のプリントで、解答欄が空白になっている。
「えっと? 次の文章が指しているものを説明しなさい。懐かしい」
 “アキコは、友達と山登りに出かけた。二時間くらいで、頂上に着く高さである。しかし、アキコはとちゅうでつかれてしまい、休けいをした。”
 という問題だった。
「何でこれが、これを差してるの? こっちじゃないの?」
「主語と述語は同じ文章内にあるんだ。だから、長文だったとしても、句点までの文だけを見れば良いよ」
 だから、と一問目の回答を丁寧に解説をしていく。
「じゃあ、こっちは解ける?」
「やってみる」
 ヒントを出して、大輝は飲み物を取りに行った。

「出来た!」
 余程嬉しかったのか、部屋に戻って来るなり、プリントを持って見せて来る。勇輝を宥めてから、テーブルに飲み物を置いて、解いたプリントを見る。早く結果が欲しい、と隣から伝わる熱い視線がおかしくて、わざと焦らすと勇輝がそわそわし出すから、余計に面白かった。

 良く出来たね。

 大輝がそうやって褒めると、はにかんだ。
「兄ちゃんの教え方は分かりやすいから好き」
「……そう? ありがと」
 頭をぽんぽんと触れて、嬉しそうな顔をする。
「兄ちゃんが先生だったら良いのに」
「ふふ」
 勇輝からもらう素直な言葉が、くすぐったく思う。
「俺が先生だったら勇輝に甘やかしてばっかになるな」
「へへ、僕は嬉しいよ?」
 愛情で答えれば、愛情で返してくれる。こんなに好きが溢れているのに……。

 なんでわからないのか。

「勇輝は良い子だね」
「僕は良い子?」
 慣れない言葉に不安な顔を向けた。
「うん」
 肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めるようにすると、また勇輝の匂いが鼻を掠める。とても甘くて頭が痺れそうだ。
「兄ちゃん、どうしたの?」
「いや……」
 具合が悪いように見えたのか、急に優しい言葉をかけてくる大輝をおかしく思ったのか、勇輝が心配そうに見つめてきた。それに対して、大輝は頭を撫でて何も心配ないよと額の髪を上げては、そこにキスをする。
「!?」
 動揺したり、嬉しそうにしたりと、忙しない。大輝は嫌がられなかったのを良い事に、耳に息を吹き掛けるように喋る。
「ふふ、勇輝?」
「ひゃ」
 腕の中で少し肩をすくめてびくつく。
「勇輝は素直で良い子だから、大好きだよ」
 その悪戯は、次第に心地よいものとなり、体の芯が温かくなってきた。
「優しいし嘘もつかないし、本当に良い子だね」
「そんな」
「ううん、自分を否定しないで?」
 一つ一つが優しく、甘い言霊のように耳に残る。それは膨れ上がり、受け止めきれなくなって体が崩れ落ちそうになっていた。
「兄ちゃん、もう大丈……」
「俺は分かってるから、“ご褒美”だからね?」
 否定するなと言うが、自分には相応しくない言葉ばかりだと、何度も拒む。それでも大輝は眠るまで続けた。
「大好き」

 愛しい、愛しい俺の弟。


2015.12.07 完成

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