それから、勇輝は今まで以上に兄ちゃん、兄ちゃんと慕って来るようになった。学校にいるとき以外、一緒にいる事が多くなって行き、近所では仲良し兄弟だとちょっとした有名人になった。その噂が母の耳に入ったのか、気味悪がられたが、大輝は犬が吠えているかのように聞き流す。
そして、勇輝は勇輝で母の悪態を気にする事も少なくなっていった。
今日は、勇輝の服を買いに出掛ける事に。
「久し振りに手を繋いで歩く?」
「っ……いい」
否定をしたが、頷こうとしたのを見逃さない。引ったくるように手を取って握る。勇輝は恥ずかしそうにしていたものの、案の定嫌がらなかった。
二十分程歩いた所にデパートがあり、エスカレーターで七階に上がる。さすがに大勢の中、勇輝は手を離して大輝の後ろを付いて行った。そして、勇輝が着そうな子供服売り場に入る。
「あの」
一緒に物色をしていると、勇輝が声をかけてきた。
「何?」
「か、格好良いの選んで欲しい」
「ふふ、分かった」
頬を少し染めて、何を言われるのかと思った。
勇輝はまだ他の同学年の子より小柄で、背の順番も一番前だった。睫毛が長い所為か、顔立ちも女の子だと思われる事も少なくない。だから、格好良いものに憧れるのだろう。
「これはどう?」
厚い目の生地に、男の子かつ大人っぽく紺色一色でシンプルにビロードに織られた素材の服を選ぶ。
「ん〜分からない」
「お客様、試着なさいますか?」
やり取りを見ていた店員がここぞと声をかけて来る。
「勇輝、試着だって。どうする?」
「試着したい」
店員に試着室へ案内され、勇輝は靴を脱いだ。
「え? 兄ちゃん?」
服を渡して貰えると思ったが、大輝ごと中に入って来たもんだから、驚きを隠せなかった。
「別に大丈夫だよ。兄弟だし」
笑顔でそう言われると、何も言えなかった。着ている服を脱いで、選んでもらったシャツを着る。
「はい、これも」
いつの間に持っていたのか、クリーム色のカーゴパンツを渡された。
「兄ちゃん、どう?」
照れながらも大輝の選んだ服を纏った勇輝を見て、本当に可愛いと思った大輝は、
「可愛いよ」
と、口に出してしまう。
「え!? 僕は格好良いのが良いって」
「ん、シンプルで格好良いし、可愛いよ」
「??」
よく分からないまま、勇輝はその上下ともを買う事にした。
帰り道も、大輝に手を引かれながら歩いていると……。
「あ……!」
いつかの勇輝を虐めていた近所の奴等だった。勇輝は何かされる前に咄嗟に手を離し、大輝の影に隠れて見えないようにするが、近所の子供も気が付いたようで、二人を見た。
「!」
「うわ」
何を言われるのかと心臓が騒がしくなってゆくも、何も起こらない。それを不思議に思った勇輝は、恐る恐る見ると、子供の一人と目が会ってしまい後悔した。やっぱり何か言われるのだと思ったが、通り過ぎてしまった。再び盗み見ると、こちらを見ているだけで何もして来ない。
「…………?」
何が何だか分からないが、二人だけの世界になったような気分になった。
2015.11.15 完成