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3万打記念
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理由とか、後付けのものなんていらない。あるのはただ「今」という現実で。夢とか、希望とか、感情とか、そういうもの全て絡みあって「今」がある。普段強がってしまう言葉を飲み込んで、ほんのちょっと素直になる。感情に言葉を添えて、伸ばされた君の手にそっと僕の手を添えて、君の隣にそっと、僕を添えて。そっと囁くんだ。「君を愛しています。」

上がりきったライブハウスの温度を穏やかにするように不二の歌声が響く。ステージには不二ひとり。ベース、ギター、ドラム、それぞれ担当の白石、幸村、佐伯は演出の都合で袖にハケていた。クラシックギターを片手に弾き語りする不二。その横顔をじっと見つめる白石。曲の内容が打ち合わせの時と違っているとか、いつの間にこんな曲を作っていたのかと、考えた所で思い当たらないので考える事を止めて曲に集中する。心地よい長調をなぞる旋律。風のような淡い歌声。無駄なんて一切なかった。

「上手くなったな、不二。」

隣で幸村が呟いてそちらに顔を向けた。元々歌は上手い不二だ。今更上手くなったと言われても疑問符が浮かぶだけだ。そんな白石の様子を見て幸村が苦笑を漏らした。

「不二の奴、ギターが全く弾けなかったんだよ。3ヶ月前まではね。」
「初めはセンスの欠片もなくて諦めさせようとさえしたよ。」

幸村の後ろから佐伯が意外な真実を口にし、懐かしむように幸村はくすくすと笑った。そして、俺が直々に教えたんだ。上手くなって貰わなきゃ困るよ。と嬉しそうに不二を見つめた。

どうせギターを弾くなら自分に聞いてくれれば良かったのに、なんて思うが呟きそうになった言葉を飲み込んだ。

現在4人で成り立つこの『Lazy...Lazy...』というバンドは元は不二と幸村が発端になって結成されたバンドだ。不二と幸村二人の名前の頭文字が『S』だと言うことから、メンバーは頭文字『S』の人間で集っていた。そして不二は頭文字『S』のメンバーを探すべく大阪まで来たのだ。不二が声を掛けたのは千歳千里。名前の頭文字が『S』の人間。必死に頼む不二に対し千歳は音楽が苦手な事もあり困った顔をしていた。そこに白石は入り込んだのだった。音楽には自信があったし、あの試合以来不二が気になっていた白石にとって好都合だった。名字の頭文字が『S』だと言う事を無理矢理こじつけて自らバンド参加を申し出た。その後、不二の意向により佐伯もメンバーに加わったのだが、そう考えると不二に誘われたメンバーではない白石は、本当は不二は若干自分に不満をもっているのではないかと感じる時が多々あった。今回もそんな感情が沸き上がる。きゅっと左手を握りしめた。不二を好きだからこそ、どうにも歯がゆい気持ちになる。

「白石。ちゃんと聞いてやりなよ。」

ぽん、と右肩に佐伯の手が乗り爽やかな笑顔を向けられた。ふっと顔を上げると曲は大サビに入る所。盛り上がる手前。さっきまでモヤモヤしていた感情を押し込めて、言葉なく佐伯に笑みを向けて不二を再び見つけた。

どんな時も君の事を考えるんだ。こんなにも、君の音を感じるんだ。声を掛けてくれた事が嬉しくて、隣で歌える事が嬉しくて。いつも強がって言えないけれど、今日は言いたいんだ。君を「愛しています。」
「S」で繋がる君に、愛の歌を。

「………。」
「お前の為に不二が寝る間も惜しんで作詞・作曲してたんだ。」
「あっはは。結構ロマンチックだろ?」

二人の雰囲気の違う笑顔が白石に向けられる。なんかしてやられた気分になって悔しくなる。

「………アホ…。」

少し体温が上がった気がして、顔を隠すように左手についたアームウォームで顔を拭った。曲を終えた不二が袖に戻って来るのとすれ違いに幸村と佐伯がステージに戻っていく。不二とすれ違いざまにハイタッチをしながら。不二と目が合い、どうして良いか分からずに視線を外した。そしてすれ違う直前、ぽん、と頭を叩いた。

「後で話させてな。」

目を反らしてしまった分出来るだけ優しい声を意識して、囁いた。小さく声を漏らす音が聞こえてすれ違う。ステージに置いてある黒いマイギターを持つ頃には、ギターをソデに置いてきた不二が足早にステージに戻ってきた。

さっきの歌が本当に不二の気持ちだと言うなら、本当に自分の為に向けられた歌だと言うなら、俺はギターの音で答えなければならない。初めてのライブの最後の曲で。君を、愛している、と。

マイクをスタンドから取った不二と目が合って笑みを向けた。すっと不二の小さな背中が呼吸をして、マイクを通した声が響いた。

「聞いて下さい。『KISS』。」




Fin...



補足。
「Lazy..Lazy...」とは。
私、天海夕奈が勝手に作ったロックバンド。イラストの方でちまちまやっていたものがついにイラストになりました。おかしいなこれ幸不二妄想から始まったのに←

ボーカル:Syu(不二)
ギター:Kura(白石)
ベース:Ichi(幸村)
ドラム:Sae(佐伯)
で構成されています。
ちなみに最後の曲『KISS』は全員の頭文字を拾っています。初めの「S」が不二最後の「S」が佐伯です(笑)

どうでもいいですが、どうしてマンガやアニメってボーカルの人とギターの人がくっつく事が多いんだろう…←

あ、曲のセンスのなさは残念です。申し訳ない…。
音楽は本当にプー太郎です。


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