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青い空がどこまでも続いている。空一面青。水平線を過ぎるとそこは一面の碧。海。何もかもそこから生まれたと思う。人間も、動物も、この感情さえ。笑みを見る度に胸が高鳴る。考えるだけで胸が苦しくなる。会いたい。話したい。手を繋いで笑い合いたい。この感情に名前を付けるならばそれは『愛』。もしくは『恋』。

「佐伯…。」

名前を呼んだ。返事は、ない。強い波の音に掻き消されて、宙を漂うだけ。誰に聞かれる事なく、想い人にさえ聞かれることさえなく。

「ねぇ、佐伯。会いたいよ。」

最後に会ったのはいつだろう。最後に名前を呼ばれたのはいつだろう。もう記憶に埃が被ってしまって真実が分からない。いっそ、幼い頃海で二人で遊んでいた時の記憶の方が鮮明に感じる。向け合った笑顔。傷だらけになって遊んだ日々。名前を呼ばれた。そして名前を呼び返した。

『佐伯。』

あの頃の僕は幸せそのもので、それでもこの感情には気づいていなくて、佐伯の隣にいることが当たり前だと思っていた。それは今なくなって気づく、大切な時間。あの頃が無くなってしまえばいいのに。曖昧な『幼馴染』という関係を持ったまま大人になっていくぐらいなら、ただの他人になりたかった。海を見るだけでこんなにも締め付けられる。自分以外に向けられる佐伯の笑顔が悔しかった。真剣な眼差しの先に自分がいない事が妬ましかった。こんな気持ちを抱いてしまう自分を知ったらきっと佐伯は軽蔑するだろう。だけど、それでいい。いつか壊れてしまうなら、自分から捨てるから。佐伯の中の僕はいつまでも綺麗な僕のままで凍らせて。それが不二周助。真っ白で、純粋で、佐伯の側で笑って
いる行儀の良い優等生。それだけが不二周助。だから今の僕は不二周助ではない。僕に名前なんて、ない。名前なんていらない。君に呼ばれないなら。君に愛されないなら。自分から捨ててしまおう。そう決めてここにいるのだから。

黙ったまま彼は足を進めた。海へと。思い出が詰まる碧い海。波へと包まれて行く。これでいい。名前のなくなった僕などいらないから。自分から捨てるから。どうか、どうか不二周助という人物をいつまでも綺麗なままでいさせて下さい。
ただ一つだけ心残りがあるとするならば、・・・・。



Fin...


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