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窓から入ってくる冷たい風に不二の栗色の髪の毛が揺れた。

さらり、さらり。

何をも障害としない風は不二の髪を撫でて自由にどこかへと舞っていった。

ぱらり、ぱらり。

さらには不二がもっている書類をさらに風は靡かせる。

ぽたり、ぽたり。

そして涙が落ちる音。




僕が恋した君へ―――…。



共通点は沢山あった。テニスが好きなこと。植物が好きなこと。本当に言いたいことはいつも言えないこと。それでいて気まぐれに本音を言ってしまうこと。そんな僕らが出逢い恋に落ちたのはある意味必然だったのかもしれない。会えば会うほど好きになった。時間を重ねれば重ねるほど愛していった。いつしか共通点よりも、僕が彼を好きな所の法が多くなっていた。真っ直ぐ先を見つめる強い瞳とか、ウェーブのかかった藍の髪の香りとか、「おいで」と言って手を伸ばしてくれる笑顔とか、抱きしめてくれるときの余裕のない顔とか、それはもう数えきれないほどだった。

中学、高校、と卒業して僕らはホームシェアとして一緒に暮らした。互いに大学生として暮らしアルバイトと実家からの仕送りで暮らして、忙しい毎日を送り充実した日々が続いた。そう、続くと思っていた。

「周助。行ってくるよ。」

そう言って、いつものように精市は家を出た。いつもの僕が大好きな笑みを浮かべて。僕がプレゼントしたシャツを着て。いつもと変わらない日常。僕が望んだのはそれだけだったんだ。他愛もないことで笑って、お互いの顔を見れば「好きだ」と囁いて、手を握って、愛されていると実感する。それが日常だった。だから非日常になるまで日常に気づけなかった。

非日常を告げたのは一本の電話。受話器の向こうから聞こえた冷静な男性の声。

―――早急に病院に来てください。―――


僕が病院に行ったときにはもう遅かった。そこには冷たくなった精市がいて、精市の両親と妹が泣いていて、僕は呆然と立ち尽くした。そのあとお通夜をして、葬式をして、なんとなく数日が過ぎた。数日が過ぎて、部屋に帰って無駄に広い部屋に無性に寂しさを感じた。

『周助。今晩、何食べたい?』

『もしも、さ。流れ星が願いを叶えてくれるなら周助は何を願うんだい?』

『周助、見てごらん。もうすぐ咲くよ。この花。』

『周助。』


『愛してるよ。周助。』

「せい……、いち………・・。」

そこで僕はやっと涙を流した。やっと精市にもう二度と触れることが出来ないんだと理解した。手を伸ばしても温もりに触れられないのだと気づいた。涙は止まらなくて、ツラいとか、哀しいとか、悔しいとか、愛しいとかいろいろな感情がごちゃ混ぜになって、ただただ声を殺して泣いた。


愛してた。いや、愛してる。今でも。だからこそ僕はこの想いを綴ります。この手紙に。あて先は、数年後の僕へ―――…。



窓から入ってくる冷たい風に不二の栗色の髪の毛が揺れた。

さらり、さらり。

何をも障害としない風は不二の髪を撫でて自由にどこかへと舞っていった。

ぱらり、ぱらり。

さらには不二がもっている書類をさらに風は靡かせる。

ぽたり、ぽたり。

そして涙が落ちる音。




再びあの頃を思い出して涙が溢れた。愛した人を思い出して涙を流した。



今日から泣かないと決めます。

数年先、君がこの部屋を出る時まで。

精市と暮らしたこの部屋、精市が生きた温もりがあるこの部屋と別れる時まで。

君は今一体誰を愛していますか?

君は今幸せですか?

ただ一人愛した人は変わっていない事だけは分かります。

どうか、君も忘れずに生きてください。

僕を愛してくれた人がいたこと。

僕が愛した人がいたこと。





ばさり、と窓から入ってきた風はその書類、否、手紙を空に靡かせて不二の手から奪った。ひらひらと部屋の中に舞う一枚の手紙。部屋の中央にぱさりと落ちたそれ。それしかない。家具はすべて引っ越し先に送られた。あとはひとつのスーツケースだけ。


不二は手紙を拾い裏へと文字を綴った。そして、その手紙で紙飛行機を作って窓から空へと飛ばす。
紙飛行機はどこまでも風に包まれ飛んで行った。
それを見届けた不二は小さく悲しそうに微笑み、そして部屋から出ていった。明日へと向かうために。



精市へ

あれから数年、未だに君だけを愛している愚かな僕を許してください。

周助



fin...


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