1/1 窓の外はちらちらと雪が降っている。まるで白い牡丹。幸村はその景色を見つめて哀しそうに微笑んでいる。そんな表情をみて、僕は泣きたくなる。なぜだかわからない。それでもこんなにも心が締め付けられる。 ちらちらと雪は降り続ける。今年初めて空から降ってきた牡丹の花。けれどそれは触れればすぐに掌に消えてしまうだろう。何もなかったかのように、儚い幻のような花。雪は地面に落ちてしまえば消えてなくなってしまう。その現実が幸村は哀しいのだといつか僕に話してくれた。 「不二。見えるかい?雪だよ。」 幸村は振り返り僕の名前を呼ぶ。そして哀しい微笑みを携えたまま僕の頭を撫でる。そっと、大切なものを扱うように。 「明日には消えてしまうんだろうな。この雪も。」 そしてあの雪も。雪はいつだって儚い。まるで花のように。いつか花は枯れゆく。人間が永遠に生きていけないように。永遠の命をもつものなどないのだから。人間のルールでは。 命を与えられたものはいつか消えてしまう。それを幸村は知っていた。知っているからこそこんなにも泣きそうな顔をしているのだろう。僕の髪に指を絡めて、そっと指を離した。僕はただ、幸村を見上げる。 「不二。俺もいつかこの雪のように何もなかったかのように消えてしまうのかな。」 幸村の感情がわからない。消えてしまうことに何を感じるのかがわからない。 「俺はね。怖いんだよ。いつか消えてしまうことが。そして悲しいんだ。」 そうやって僕はまた幸村に感情を教えて貰う。生まれ持って感情なんて僕は持ち合わせていないから。いや、生まれ持ったっていう言葉は間違っているのかもしれない。僕は生まれてなどいないのだから。 「不二。」 幸村が僕を持ち上げる。無機質な木製の体を。 「不二。お前は俺のことを覚えていてくれ。」 きっと誰かに聞いてほしかったんだと思う。人形として造られた僕に幸村は哀しそうに微笑む。その微笑みが僕の何かを壊してしまいそうになるほど苦しみを覚えさせる。 この感情をなんと呼ぶのだろうか。 「俺はただ消えていくだけの雪にはなりたくない。」 そう言って幸村は涙を流した。僕が一生流すことのない涙を。それはとても冷たかった。 そして次の日、雪は止んだ。 ほんのわずか積もった雪。 牡丹の雪は一面に白い芝生を作り上げた。 そして、枯れ木並木に積もった牡丹の雪は、白い白い桜並木を作り上げた。 それはただ消えていくだけの水の塊ではなく、人の心に一生残るような幻想的な景色だった。 「幸村。僕は君の事を忘れたりしないよ。だから君も僕を忘れないでね。」 fin.... あとがき というか…今回はあえて何も言うまいということを告げたいと思いました。 はい。← |