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純白の白が背徳の黒に変わる瞬間。それは今まで感じた事のない快楽とも取れる支配欲。ゾクリ、と背筋が震えるまでのそれに、俺はクスリと口端を歪めた。


『BLACK or WHITE』


覚えるのに1分・極めるのに一生、とはよく言ったものだ。それは少しこっちの道に詳しい人間だったならピンとくる言葉。俺にとってそれはこの『2人零和有限確定完全情報ゲーム』の中での合言葉。しかしそれは俺だけではなく対局相手である不二にも言える事。いや、全世界の人々がこれをもとに動いていると言えるのかもしれない。ただ、俺と不二にとってはそれが重大視されてるというそれだけ。偶然に左右されない深さを競う、終わりのない駆け引きゲームが。

「単純なトリックだね。それとも僕に引っかかって欲しいの?」

クスリと震える唇。俺のセキュリティーを破壊しようとするその蒼い瞳に俺は余裕の笑みを映してやる。お前は俺の手の内で踊っているだけだ、と思い知らせてやる為に。すると僅かに揺れる瞳に映る自信という光が揺らめく。表ざた自信に満ちた態度を見せていても、瞳の光までは誤魔化せない。それが演技だと言うならばまた別の話だけれど。事実か否か、それを探るのがまたひとつの娯楽。

コツリ、と足音。

そして黒が白に変わる音が、コツリ、コツリ、コツリ。


見上げたそこには純白の微笑み。


「好きだよ。精市。」

後手必勝。先に仕掛けて手も足も出せなくなる。だなんて、そんな事は言うつもりはない。例えどんな綺麗な微笑みを向けられた所で、俺の深く黒い微笑みに不二は勝つ事なんて出来ない。くっと顎を掬ってやれば、恥ずかしげに視線を伏せる。ふるりと震える睫毛。ぎゅっと俺の服を掴む初々しい態度。全てが俺を煽る。でも白を黒く変えるのは簡単。全てこの盤面は俺の読み通りに進むから。

「周助。」

覚えるのに1分・極めるのに一生。その言葉が俺の脳内を過る。『不二周助』という人間の名前を覚える事なんて1分も掛らなかった。それほど不二の存在は俺の視覚を、聴覚を、全ての感覚を奪う存在だった。神の子と呼ばれた俺が、全ての感覚を奪われるだなんて、と今でも思う。『不二周助』とはそれほどに厄介な存在だった。押せば引くし、引いたと思えば向こうから仕掛けてくる。常に「白」という罠を仕掛けてくる。それをひとつひとつ黒に変えていく事が俺の娯楽であり、今の俺の全て。

コツリ、コツリ、と白を黒に返す。

「最悪だね、君は。こんなにも不自由な俺に自由を求める。」
「そんなもの君の勝手だもの。君は自由だよ?有限、なんて言葉にとらわれたらダメだよ。」
「戯言を。」

ふっと黒の笑みを浮かべてやれば、不二からも黒の笑みが垣間見れる。それは白と両面になる黒の微笑み。ブラックラインとホワイトラインと、それを取るのはどちらか。こんなにも不二に深読みをするように要求するのは俺。けれどもそれが俺に自由を与えない。確定という他の人間から偶然の要素さえも与えない程、お互い仕掛け合い、絡み合う。逃げ出させない。逃げ出せない。

『2人零和有限確定完全情報ゲーム』という単純なゲームは、単純で偶然の要素がない故に単純では済まない。相手の手を読み、全てを把握してこそ次の手が打てる。だからそこ相手に逃げ口がないのは、同時に自分にも言える事。

白が勝つか、黒が勝つか。

そんなもの、誰にも分らない。膨大な数の局面が、お互いの手の内を読ませない。きっとそれは今の科学の全てを尽くしたところで分らないだろう。打ってみて初めて分る未来。見えない先に、ゾクリゾクリと悦楽が走る。

「最高だよ。君は。」

はっと見上げた蒼い瞳。揺れて、恥ずかしげに伏せて、嬉しさからさ迷う視線。戻ってきた視線と俺の視線が絡んだ次の瞬間に首に絡んできた腕。ゲームセット。盤面は黒一色。俺の勝ち。口の端を上げて、そっと唇に唇を重ねた。

「ねぇ、精市。」
「‥‥…なんだい?」

耳元で吐息交じりに囁かれた台詞。伏せていた視線を不二に向けて、向けた瞬間に動きが止まった。そして苦笑。

「僕の勝ちだよ。」

そこには純白の微笑み。蒼色の弧。盤面は変わって白一色。不二ばかり見ていて気付かなかった白いトリック。黒と白は両面になっている故に簡単に返される。踊らされていたのは自分だったのか、と理解するのはここにきてやっと。

「愛してるよ…。」

これが本当のゲームセット。


先に求めたのは俺。先に勝利を確信したのも俺。けれども結局後手必勝。盤面を支配したのは不二。白の頬笑みが黒い罠を掻い潜り、俺の理性というセキュリティーを破壊した。



fin...

2人零度有限確定完全情報ゲームとは。。。
つまり2人で対戦するボードゲームの事です。オセロとかリバーシとか将棋とかチェスとかですね。
ここではそれはオセロの事ですね。『覚えるのに1分、極めるのに一生』というのはオセロでよく言われている言葉というか台詞というか、つまりそうゆうものなんです。
ちょっとオセロで駆け引きする幸不二ってすごく萌えないかって思い書いてみました。でも実際こんな事考えながらオセロする幸不二がいたら、すごくシュールですよね(笑)


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