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『愛しているか』と聞かれれば『愛してなんかいない』と自分は答えるだろうと不二は思う。見え始めた結末も、遠いようで近いであろう未来も、きっとそれは確実に不二自身を蝕む原因なのだろう。
近いようで遠い空が虚しく続いている。
自分の中で最後と決めて、不二は幸村の家へと訪れた。
『Doesn't love』
「ねぇ、精市…。」
「おいで?」
不安な気持ちを伝えてしまったのだろうか、不二の呼びかけには答える代わりに幸村は優しい笑みを浮かべた。不二は導かれるままに腰をおろし、後ろから抱きしめられるカタチで幸村の腕の中に納まる。幸村の淡いラベンダーのような香りが鼻先をくすぐる。
「今日はやけに素直だな。そういう周助もかわいいけど。」
軽く髪を撫でられながら髪の上からの口づけ。暖かい香りと体温と、幸せが、じわりと伝わってくる。
「周助………?」
「………‥…、…。」
幸村が困惑しているのが不二には分った。分っていても何も出来なかった。頬を伝う滴が不二の視界を濁す。優しくなんてして欲しくないのに、不二を包むその人はこんなにも優しい。それだけは付き合い始めてからずっと変わらない事実だった。
「周助、何かツライなら…。」
「泣いてなんかない。」
幸村の声を遮る不二でも分かる涙声。肯定的な否定の言葉。
「泣いてない………。」
言い聞かせるように不二は再び呟いた。耳元で困惑したように声を飲む気配がした。しかし実際に涙が零れるのは変わらない現実で、どうにもならない感情が溢れるばかりだった。
そんな不二を心配して、幸村はさらに抱きしめる腕に力を込めた。不二を暖かさが包む。優しさと甘さ。このまま全てを幸村に委ねられたら、なんて高望みのしすぎだと思う。
「ごめん。帰る。」
不意に不二が立ち上がる。それだけ言って幸村の腕から離れる。しかし、直ぐに後ろから手を引かれて再び暖かさに包まれた。静まる室内。耳を塞ぎたくなるほどの静寂。
「離して。」
「離さないよ。」
「帰らせてよっ……‥!!」
突き放す、事なんて出来なかった。苦しい。呼吸が出来ない。ただ言葉だけは強がりばかりが音になって幸村を拒絶した。幸村は少し戸惑ったように腕の中に納まる小柄な体を見詰めたあと、本心から告げるように囁いた。『帰さない』と。
涙が止まらなかった。一番告げてほしくない言葉だった。けれども一番言って欲しい言葉だった。幸村の胸に顔を埋めて、泣いた。自分でも飽きれるぐらい子供みたいに。
「……‥好き、……ッ…。」
それだけが声になった。小さくて、掠れていて、涙に紛れた声だったけれども、幸村は小さく『うん。』と頷いた。それは優しい声。ラベンダーの香り。本当はただ引き留めて欲しかった。なんて女々しい理由だろう。それでも、あまりに好きすぎて、愛しすぎて、この感情をどうしていいか分らなった。もう嫌になるぐらい、愛しい。最愛の人へ。
キスをして。
抱きしめて。
お願い。
離さないで。
fin
素直になれない不二とそんな不二を愛している幸村の図。大分前にシリアスで書こうとして放置してあったのもらしい(爆)
ラベンダーの香りは完璧に私の趣味です。幸村の匂いを考えて小一時間。
シャンプー?いやいや王道過ぎる。
石鹸の香り?いやいやそれは真田だ。
うん。ラベンダーがいい!
と決定。私の好きな香りだから←
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