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「好きです。付き合ってください。」

そんな長太郎の一言から俺たちの関係は再び始まった。先輩・後輩という絆から、恋人という絆に。まるで隔たりをもった純潔なオツキアイ。自分が良くても、長太郎が嫌がったりしないだろうか、とか、無理をさせてしまうんじゃないだろう「好きです。付き合ってください。」

そんな長太郎の一言から俺たちの関係は再び始まった。先輩・後輩という絆から、恋人という絆に。まるで隔たりをもった純潔なオツキアイ。自分が良くても、長太郎が嫌がったりしないだろうか、とか、無理をさせてしまうんじゃないだろうか、とか考えたら何もできなかったんだ。
そして、簡単に卒業の日がやってきたのだった。


『キズナ』

「……。」

誰もいない教室にチャイムが鳴り響く。俺はひとり卒業式後の教室に残っていた。誰もいなくなった教室はただただ静けさが残るだけで、赤み掛かった光が射し込んで寒い教室に温かさを感じさせた。

『宍戸さん……。』

不意に昼間の長太郎の顔を思い出した。今生の別れって訳でもないのに目を真っ赤にして、寂しいと俯いて、ずっと一緒にいたいと泣いた。デカイ図体しながら泣く後輩がただの後輩だったなら『泣いてんじゃねぇよ。』などと笑って肩でも叩いてやったのに、それが相手が長太郎だったから、付き合っている相手だったから、視線を伏せる事しか出来なかった。

普通付き合っている相手とだったら卒業してからでも会える。俺たちも例外ではない。だから別に他の後輩同様の態度をとってもよかった。

でも、それを言ったあとは?

長太郎は悲しまないだろうか。自分と俺との感覚の差に苦しむんじゃないだろうか。『俺にとって長太郎はそれっぽっちの存在だ』などと勘違いをするんじゃないだろうか。そんな訳あるはずがないのに。だから何も言えなかった。何も出来なかった。ただ、淡い春の風が吹き抜けるのを感じる事しか出来なかったんだ。


『俺、宍戸さんが好きです。』

そう長太郎は何度も言っていた。その度俺は居たたまれなくなって、素っ気ない返事をしてはぐらかして、その度長太郎を悲しそうに俯いた。多分ちゃんと答えられたのは、初めの告白のときぐらいだろう。長太郎がそれに悩んでいる事を知っていた。『好き』の度合いが違う故に俺を困らせているのではないかと、日吉に相談しているのだと、日吉から聞いた。それがさらに拍車を掛けて、尚俺は『好きだ。』という三文字が言えなくなった。


だから尚更なんだ。今そんな態度をとったらきっと長太郎はよりしゃくりをあげて泣くだろうから。『好き』と言えない俺には、言葉の選択肢がなかったんだ。

「お、おったおった。」

声がして振り返るとそこには忍足の姿。相変わらず無造作な髪の毛が夕陽に照らされて淡い色になっているのを、俺はぼんやりと見上げた。


「今日これから跡部の家で卒業パーティやるんやて。強制参加らしいで?」
「へぇ……。」

正直どうでもよかった。きっとそんな事ならきっと忍足はメールしてくるだろう、という事を分かっていたからだろう。先を催促するような視線を送ると、まぁまぁと軽い笑いを忍足が漏らした。

「自分、もうちょい素直になった方がええんとちゃう?」

『鳳が可哀想やん』と一言。正直忍足に言われる筋合いはない、と思うのだがそれが事実なので何も言えない。本当、自分って何も言えない子供だなとつくづく思う。

「……宍戸?」
「あ?跡部ん家いくんだろ?」

何も言わないまま俺は歩き始めた。そんな俺に忍足は不思議そうに問いかけて、隣に並ぶ。見上げれば身長の高い男。だけど、もう少し、足りない。何度も定規で測って確認した13cmという身長差。割と身長の高い忍足が横にいても、やっぱりその13cmという身長差には足りない。

「な、なんやねん……。」
「いや。別になんでもねぇよ。」

じっと忍足を見上げていた事にたじろいだ忍足が眉を潜めて問いかけてくるが、俺はやっぱりはぐらかすようにそっぽを向いた。

伝えなくても伝わる事ばかりではないことを知っている。知っているが故に言えない時もある。次会ったら伝えるべきだろうか、そんな事を考えながら昇降口に向かったら大きな身体を小さくして座っている人の姿があって、俺の姿を見つけるなり抱きついてきた。


「好きです、宍戸さん。俺、俺やっぱ宍戸さんが好きなんです。別れたくないです。」

この男はどこまで一人で突っ走るのだろうか。別れるなどという話にいつなったのだろう。
驚いたままの俺を強く抱きしめてくる長太郎。そんな長太郎にどこか飼い主を見つけた犬みたいなものを感じながら、その銀の髪を撫でてやった。

「ばーか。」

そこでニマニマと笑みを浮かべている忍足の存在に気付き、俺はとっさに体を長太郎から離した。友人に見られてるだなんてそんな羞恥に耐えられるはずもなかった。

「お、おら。いくぞ!」


しゅん、となってしまった長太郎を催促するように、またはぐらかすように声を掛けて、俺は再び歩き始めた。校舎を出ると珍しくそこには準備をしているらしい跡部と樺地、以外の氷帝の正レギュラーメンバーが揃っていて、一緒にぶらぶらと無駄話をしながら跡部の家に向かった。

その間、俺は長太郎の隣をずっと歩いた。

まだ寒い春の風。

ただずっと繋いでいた右手は、跡部の家に着くころにはすっかり冷え切っていた体に比べてずっと温かかった。








Fin...












お待たせしました!23500hit莉柄様リクエストの宍鳳です!

付き合いたてでも長年付き合っても宍戸さんはなかなか鳳に手を出せないんだと思います。そしてそれ故に鳳は不安で不安で仕方がないだと。なかなか発展しない二人を日吉はうざったいと思いつつ手助けしてあげるのでしょう。

あとツンデレで可哀想な宍戸さんというリクエストだったのですが、そう思って頂けるか若干……いや、かなり不安です(滝汗)
何も出来ない故に周りに言われるんですが、分かってるからこその可哀想な宍戸さんイメージです。分かるのに出来ないってもどかしいですよね…(所詮言い訳←)

あぁなんかもう本当自分の文章能力故に申し訳なさMAXですはい。久々のリクエストだったもので……あばばば


では見苦しくなりましたが、最後までありがとうございます。

莉柄様のみお持ち帰り可です。



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