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本当は近づいてはいけなかった。

こんなにも近くて遠い人。

近づくなというのは、禁忌だったという事は当り前の話で、

それでも俺は、その優しさに惹きつけられて離れられなかった。


『秘密』

情事後の気だるさに耐えきれずに眠りについてからどれくらい経っただろうか。手塚はゆっくりと重たい瞼を開いた。広い部屋の大きなベッドに横たわるのは手塚一人。恋人である跡部の姿はどこにもなかった。手塚は特に体を起こすわけでもなくぼんやりと辺りを確認すると再び瞳を閉じた。
いつからこんな感情を持ってしまったのか。なぜこんな感情を知ってしまったのか。苦しいような、切ないような、哀しいような。その感情を説明する言葉を手塚は持っていなかった。ただ胸が締め付けられるような『それ』に、手塚は耐えるように拳を作った。

しばらくして、部屋の扉がキィと鳴った。手塚は特に確認することなく気配だけでその人物を特定する。最もこの部屋に入ってくる人物など一人しかいないのだが。その人物はもちろんこの部屋の主。跡部景吾だ。跡部は部屋に入るなり手塚の傍へと近づいていく。トン、トンと静かな足音。手塚は相変わらず特に反応を示さない。それでも跡部が手塚の前で足を止めた時、手塚はしっかりと跡部と視線を交わせた。

「………。」
「………。」

微かに手塚の唇が動く。何か言葉を跡部に伝えようと。しかし、結局は何も口にすることなく再び閉じられた。その台詞を口にしたら、手塚は自分自身が保てる自信がなかったのだ。冷静沈着で、何事も全力で挑み続ける『手塚国光』が崩れてしまう事が怖かったのだ。そんな手塚の表情を見て跡部はフ、と笑みを作り手塚の髪をそっと撫でた。

「なんて顔してやがる。」

とても優しいセリフ。いつだってそうだ。跡部はどんな時、どんな状況下でも手塚に優しさを分け与えてくれた。あの時の試合だってそうだ。一見手塚の弱点を突くような試合運びをした跡部。しかしそれは正々堂々という名のある種の優しさだった。少なくともテニスに正面から向かう手塚にとっては、限りなく大きな優しさ。
わさわさと髪を撫でられる感覚に細く目を細めつつ、手塚は自分の隠した感情が跡部に気づかれていない事にそっと胸をなで下ろした。

気付かれたくなどない。

こんな優しさが自分だけのものでない事に悔しさを感じている事など。

ゆっくりと手を伸ばし、そして手塚は跡部の首筋に手を伸ばした。確認するように。こわけではない。この暖かい口づけからちゃんと伝わってくる。愛されているのだと。愛してくれているのだと。ただ、それが逆に苦しさを生む結果に繋がってしまっているだけなのだ。

「愛してる。」

耳元で囁かれた愛の言葉。手塚は何も答えなかった。脳内で浮かび上がる疑んなにも近くにいて、手を伸ばせば届く距離にいる人は、手を伸ばしても届かない所にいる。この首を締めたら自分だけのモノになるだろうか?馬鹿げたような発想がチラリと手塚の思考を横切った。しかしその手を退けることなどせず、そっと降ってくる口づけ。愛情を感じていない問。

誰に向かって言っている?

俺に?それとも他の『誰か』に?

首筋に多数みられる愛の証さえ、愛の証に成りえない。

そんな事ばかりを考えながら手塚はそっと瞳を閉じた。



なぜ目を覚ました時に傍にいてくれなかったのかなんて分かりきっている。

『誰か』と電話をしていたのだろう?

『誰か』に愛の言葉を囁いていたのだろう?
だから、『愛している』だなんて嘘をつかなくていいから。

これ以上期待させないでくれ。

これ以上傍にいさせないでくれ。

俺からは離れられないから、

頼むから突き放してくれ。





そうか、これが











─────嫉妬────。







Fin.



















独占欲強い手塚な跡塚が書きたかっただけです(爆)
実際跡部に手塚以外の恋人なんていないのに、、ってのでもいいですし、本当に跡部には手塚以外の恋人がいて、、ってのでもどちらの解釈も出来るかと思います。が、そこはあえて読み手さんに任せようかと。

これでも跡塚と言い張ります。←



あきゅろす。
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