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久々のこの風景に懐かしさを感じる。同じチェックの制服を身に纏った人々が各々に同じ方向に歩いていく。まだじんわりと伝わる暑苦しさを振り払い、新学期は始まったのだ。

思えばこの夏は色々な事があった。大半を占めるのはテニスの事。全国大会まで進み、様々な選手に逢った。そして焼き肉大会もした。本当に審判という立場で良かったと思う。(それでもみんなの奮闘は一生忘れないだろう)。大分邪険に扱われていた従兄弟にもあった。(本当についでだったが)念願のヘリにも乗った。

どれも楽しい思い出ばかりで、もう何ヵ月分もの時間を過ごしたようだった。おかげで自分が朝何時に出ていたか分からなくなって跡部に電話するはめになった。しかし跡部は跡部で『んな事俺様が把握してるわけねぇだろ。』と言うなり一方的に電話を切るものだから友達甲斐のないヤツだ。


「ちょい早すぎたなぁ……。」

携帯の時計を見るとまだまだ時間は十二分に余裕があって、やっぱりしっかりと時間を計算して出てくるんだったと後悔した。

「侑士!」
「うっわ!」

そんな事を考えていたら、ドサッとした後ろからの重圧でバランスを崩した。驚いて振り向いたそこにはワインレッドの小柄な男。

「なにボーッと歩いてんだよ。」

にへらっと笑う岳人の笑顔は相変わらずで、突き飛ばした事に関しての謝罪、どころか反省さえしていないようだった。

「おはようさん。岳人今日は早いやん。どないしたん。」
「俺の話に答えろよ。」

先ほどの笑顔などなかったかのように不機嫌な顔になる岳人。すぐに表情や気分を変えるのは岳人の得意分野だ。自分の思うようにいかないと直ぐにご機嫌斜めだ。


「すまんすまん。特に意味はなかってんで?」

宥めるように薄い笑みで遅れた返事を返すも、岳人は特に興味なさげに『ふーん』とだけ答えた。

「ま、いいや。行こうぜ侑士。」
「………ぁ…。」
「……ん?なんだよ。」

不意に手を取られて思わず小さな声が出た。恋人同士ならば当たり前の行動なのだろうが、なにせそうゆう事には慣れてない。岳人は俺が出した声の意味が分からない、と言った様子で眉を潜めで見上げてくる。そんな視線に耐えられずに口ごもりながら視線を外したら、『訳わかんね』と一言。それでも繋いだ手はそのままで、それがとてつもなく嬉しかった。

「……岳人。」
「んぁ?」

雑音に掻き消されてしまいせうな小さな声を発したつもりなのに岳人には聞こえていたらしく適当な返事を返してくる。若干の恥ずかしさを感じ繋いだ手に力を入れて俺は続ける。

「……好きや。」

なけなしの勇気を振り絞った告白のよう。得意のポーカーフェイスは保てているだろうか、分からない。ただ岳人はまじまじと俺に視線を送った後、ひとつ息を吐いた。

「……で?」

至極どうでもいいと言わんばかりに岳人は続きを催促する。人の告白をなんだと思っているんだこの男は。

「『で?』やないやろ!『で?』や!」
「……んだよ。何が悪いんだよ。」

まるで話にならない。開いた口が塞がらないというのはこう言う事をいうのだろう。恋人の告白にここまで無頓着でいいのか。俺は繋いでいた手をまるで投げつけるかのように振りほどいた。

「岳人のアホ!人でなし!冷徹人間!」
「うっせぇな!なんで俺が侑士の告白にいちいち答えなきゃなんねぇんだよ!」
「な…!!それが恋人っちゅうもんやろが!!」

一度爆発したものはなかなか収まらない。そう言えばあの時も、あの時も、と様々な文句が脳内によぎった。が。

「恋人だからだろ!侑士が俺を好きなのは当たり前じゃねぇか!」
「……………。」

まさに鶴の一声。いや使い方が間違ってるが、俺にはそんな感じだった。黙った俺をみて岳人がフンッと効果音の付き添うな顔で俺を睨んだ。

「侑士が俺を好きなのも俺が侑士をそれ以上好きなのも前提で話してんだろ。雰囲気もなしに急に好きだとか言われて他にどうしろって?」
「………なんもせんでええです。」

きっと俺の顔は緩んでいるのだろう。岳人理論の前では俺の権限などあってないようだと自分ながら思う。

『ならいくぜ』と再び歩き出した岳人の横を歩きながら再び手を繋ごうと思ったら鞄を代わりに渡されたが、今日は素直に持とうと思った。

たまには早く学校にくるのも悪くない。



Fin.







新学期シリーズ第二段。岳忍です。男前で鬼畜な岳人が大好きなんです。そんな岳人に逆らえない忍足は大変可愛いと思うんですよね。下僕のように扱われる忍足。でもそれも愛情です。岳人なりの愛情なんです。

我が家の岳忍はこんな感じでした(爆)



あきゅろす。
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