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「…なんという…‥顔をして‥いるん、ですか…‥。」
途切れ途切れの呼吸で紡がれる言葉。白い服に広がり続ける赤。涙が止まらない。意識的でないソレは抱き締めた彼の白い肌に落ちて滑る。
「‥は‥、…泣かな、いで…‥下さい…。」
呼吸が浅くなっていくのが分かる。今にも崩れてしまいそうな彼の表情は、それなのに優しく柔らかい。
───何故。
何故、彼は口にしない。
どうか口にして下さい。
懺悔を。
嘆きを。
「…‥‥──…。」
「………え?」
震えた唇が作り出す声は余りに小さすぎて。聞き取れなくて、口に耳を近づけた。
「………っ…!」
聴こえたのは掠れたメロディー。甘く優しい愛の曲。途切れ途切れのその曲は、しかししっかりと伝えてくる。
幸せだ、と。
悲しくなどない、と。
彼が伝えたがっているのは懺悔や嘆きなどではなく、ただ単に『愛』だけ。
もう声を出さなくていいと言っても歌う事を止めない彼。何度咳き込んでも。何度痛みで歌が途切れても。
そして、
彼の歌が止んだのは、彼の声が二度と永遠に聞こえなくなった瞬間だった。
「……愛してます…、私も…貴方を。」
白い髪を撫で、冷たくなり始めた頬に唇を落とした。止まらない涙は枯れ果てるまで流してしまおう。はしたなく声を出して泣いて、声さえ枯れてしまう程。
「───雅治─……。」
人格の入れ替わりを繰り返し、自分を私だと思い込んでしまった親愛なる貴方へ。
仁王雅治としてではなく、柳生比呂士として旅立った貴方へ。
You are...
You are me
I am you
あぁ、今僕はどちらの人間として生きていたのだろう───?
今あるものを現実として捉える人間には分からない。
君は僕で僕は君。
でも本当に?
もしかしたら僕は僕でしかないかもしれないのに。
真実は誰も知らない。
Fin...
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