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風が吹き抜ける。
全てをすり抜けて、桜がはらはらと落ちる。
中学三年間はあっという間で、また三年間同じメンバーの顔を見るハズなのにどこか寂しさが沸き上がる。
目の前で涙を流す少年。少年というにはあまりにも身長の高い男。別れるたった一年がツラいと。さっきまで笑っていたはずなのにぽろぽろと涙。まるで桜を散らすように綺麗な涙が落ちる。
「んな泣かんでもええやん。高等部で待ってるし。」
「は…い…‥。」
ずぴっと濁音。
その大きくて細い体を抱き締めてやれたらどれだけ嬉しい事か。
叶わない夢だ。
好きだから。好きだからこそ。
「高等部のテニス部で待ってるわ。また跡部のヤツが牛耳るつもりらしいねん。」
俺は不自然がないように笑顔で告げた。一番言いたい言葉を飲み込んで、出来る限りの普段の俺を造る。
「次に俺らに会うまでに強くなるんやで?」
からかうような笑み。自分で自分の感情を操る。それもこの三年間で身につけたスキルだと思うと若干寂しいものだ。
「んじゃ、またな。」
ぽん、と少し高い肩を叩いて、俺は彼の隣を通り抜ける。多分これ以上ここに居たら俺が堪らない。このポジションはきっと宍戸や日吉がいた方が彼を笑顔に出来るのだろう。
「忍足さん!」
呼ばれて振り替える。
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げた彼を確認した後、俺はまた歩き出す。
今日の桜はヤケに優しい色を反射していて、綺麗に散っていた。
Fin...
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