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月は明月の秋を知る。


花は新香の春を知る。



僕は、誰も知らない真実を知る。



『現と夢の狭間』




とある都内のマンション。現在はサラリーマンとして毎日を過ごしている不二にとって大きすぎるほどの3LDKのマンション。この時間に迫られる過ごす都内だが、しかし不二はそれとは違う。酷くゆっくりと感じる時間の中、やりたい事をし、やりたくない事からは身を隠し過ごしている。有給もほとんど残ってはいないほどだ。

そんな不二の家に今日は佐伯が遊びにくる予定になっていた。お互いの休日が重なった珍しい休日。二十年以上の付き合いの友人の訪問、どんなに待ち望んだことだろうか。


そしてその佐伯の訪問が切っ掛けで全てが崩れてゆくなどとは誰も思いはしなかった。



***



「へぇ、随分大きな部屋に住んでるんだな。一人には大き過ぎるんじゃないか?」

部屋をキョロキョロと見渡しながら素直な感想を述べた佐伯の言葉に微かに眉を潜めるが、それはまるで見間違えだったかのように苦笑を佐伯に向けた。

「……いや、一応精市もいるからさ。今はいないけど。」

全国大会が終わって少し、不二と幸村が付き合っているという噂が流れた。しかし噂は本当のもので、不二が佐伯にそれを報告した時の驚きは佐伯は今でも忘れられないらしい。

大学に入学してしばらく、不二と幸村は互いの大学から中間地点の都内の──今不二が暮らしているマンションに同居する事にした。理由は簡単。違う大学に進む互いの逢える時間の短さ故。時間があれば互いに合いたいと思うも、神奈川と東京。なかなかそれは叶わない。ならば、と言う理由だ。

しかし大学2年の時、幸村は語学の勉強に行くとイギリスへ留学する事になった。あまりに急な幸村の発言に驚愕する不二だったが幸村がやりたいなら、となんとか首を縦に振った。初めは不二も幸村に付いて行こうとさえ思っていたらしいのだが大学の関係上、それは無謀だった。


そしてそれから5年。未だに幸村は不二が待つこのマンションには帰って来ない。


「本当、今頃何をしているんだろうな。幸村は。」
「……。」

ぽつりと呟いた佐伯の台詞に苦笑しか浮かべられない不二。何かを躊躇っているような笑顔に禁句だったか、と自分の発言を反省する。ひとつのため息の後切り替えるように笑顔を浮かべた。

「…そんな事よりさ、最近どうだい?何か楽しい事あったって言ってたろ?」
「……あ、あぁ。そう。手塚とね───。」










***

空が暗くなり月がはっきりと見えきった頃、佐伯は帰路についた。泊まっていけばいいのにと言う不二の台詞に、明日会社があるからと言う理由で肩を竦めた。

「……留学か。」

佐伯は3年も音沙汰がない幸村の事が気になって仕方がなかった。前に不二と幸村に会った時はあんなにも幸せそうだったのに、幸村がそんな事をするとは思えない。

幸せはそんなに簡単に壊れて良いものなのだろうか。

人工の明るさに照らされた道を歩く音だけが響く。

すると不意に瞳に飛び込んで来た人物。佐伯はその意外な人物の姿に目を見開く。

「……君は……真田?」
「…む、お前は……。」

互いに足を止めて相手の姿を瞳に映す。

「どうして真田が此処に?君の家って近いのかい?」
「いや、少し遠いが…。」

滅多に会わない知人との再開にどこかぎこちない会話。

しかし持ち前の人柄の良さ故か何とか話をしようとする佐伯。爽やかな笑顔が光に照らされる。

「じゃあどうしたって言うんだ?」

お前もだろ。と言う疑問を飲み込んで静観な顔で佐伯を見つめる真田。その瞳は佐伯を見ているも決してそれを映していない。それを隠すためか微かに視線を伏せた。

「……幸村の所へ。」
「…………え?」


***









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